大規模な手術でも、わずか数センチの傷で終えることができる。そんな魔法のような手術を実現するのが、内視鏡手術です。当院では内視鏡手術センターを設置し、一般的な外科手術はすべて内視鏡手術で対応する体制を整えています。
内視鏡手術とは、体に3~5mmの孔をあけ、内視鏡を挿入して手術部位の様子をモニターで確認しながら、やはり小さな孔から入れた器具で手術を行う方法です。非常に高精度なスコープを通して体内を確認するため、顕微鏡をのぞきながら手術をしているともいえ、従来の開腹手術よりも精緻な手術が可能です。
さらに、最大の利点は、その侵襲の低さ、患者さまの体への負担が小さいことにあります。
例えば、右側の大腸を切除しなければいけない場合、開腹手術では腹部を大きく切開する必要がありますが、内視鏡手術では、腹部に径わずか2.5センチメートルの孔をあけるだけで終わります。痛みが少ないのはもちろん、傷跡も小さく、どこが手術跡なのか、患者さまご本人でもわからないほどです。
また、手術中の出血量が少なく、手術の翌日には元気に歩き回ることが可能です。早くから運動ができるので腸も癒着しにくく腸閉塞リスクが下がり、同時に栄養も早くからしっかり摂取できるため、結果として体力の回復も早くなり、入院日数も短くなります。
患者さまに多くのメリットをもたらす内視鏡手術ですが、その安全性と正確さは、担当する医師の経験と技量によるところが大きく、教育が非常に重要です。当院では、内視鏡手術を担当する医師の教育システムをつくり、豊富な知識、技術、経験を持った医師の育成に取り組んでいます。
まず、「ドライラボ」と呼ばれる患者さまの体を模した機材を用いた訓練や、「ウェットラボ」という専用のトレーニングセンターでブタを使った訓練を重ねます。こうして基本的な技術を習得すると、ようやく実際の手術に参加して、内視鏡の操作や第一助手を担当しながら、手術の画像を繰り返し見て学びます。
内視鏡手術は開腹手術と異なり、手術をしながらモニターを確認するため、その場に立ち会っている全員で術野を確認し、指導することができます。そのため、医師の学習効率がよい手術でもあります。
映像を録画し、術後に自分の手術を再確認する、それを他の医師に見せ意見を求める、熟練した医師の手術を何度も見ることもできる、といった開腹手術では考えられなかった経験の共有が可能です。さらに、肝臓の裏側や骨盤の奥深くといった、開腹手術では実際に見ることができず、書籍などの記述を参考にするしかなかった部位を確認しながら手術をすることもできます。
こうして十分に経験を積むと、今度は執刀を少しずつ担当するようになりますが、内視鏡では、さらにいくつかの特殊な技術も求められます。「モニターに2次元の映像として映し出されている患部を、頭の中では三次元化し、立体的に捉える」「孔から挿入した棒で組織を触り、その感触で状態を判断する」「映像に映し出される組織の色で、切除箇所を正確に認識する」などが、そうした技術にあたりますが、これらは映像を見るだけでなく、熟練した指導医の存在が不可欠です。
指導医になれるのは、日本内視鏡外科学会が認めた「内視鏡外科技術認定医」のみとなっており、その数は多くありません。しかし、当院では各診療科に1名以上、認定医が在籍しています。そのため、教育体制の充実はもちろん、保険診療内の外科手術は、すべて内視鏡手術で対応することができ、診察時にはその旨を患者さまに必ずお伝えしています。また、保険診療枠外の手術であっても、臨床試験として実施できる場合もあります。他院から内視鏡手術を希望して、転院されてきた患者さまを受け入れるケースも少なくありません。
「開腹手術を受けるのが不安」「手術の跡が目立たず術後の痛みを軽くしたい」といった希望をおもちの患者さまは、ぜひ当院にご相談ください。