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つくしんぼ(VOL.198)
2024年10月号

【連載】入退院支援室看護師の紹介

入院から退院後の生活まで一貫した支援を行います

医療のみならず退院後の生活に関する患者さまの不安や疑問をしっかり伺い想いに寄り添うサポートを多職種で連携し、提供します

栗原 美知子(くりはら みちこ)、鈴木 和美(すずき かずみ)

入院患者さまの大切な情報を一元化

入院前から退院後の生活まで一貫した支援をPFM(Patient Flow Management)といいます。PFMでは患者さまが安心して医療を受けるために必要な情報を、外来から病棟、病棟から外来へと円滑に循環させることが重要です。北里研究所病院ではその役割を担うために2022年に入退院支援室を設置しました。
入退院支援室では、入院患者さまの外来通院時からの情報をまとめ、その情報に基づき看護師が入院前に面談を行います。薬剤管理が必要な場合は薬剤師が、治療食が必要な方や嚥下機能が低下している方の場合は栄養士も面談を行います。
入院前の面談では、まず入院生活の流れを動画を使用して説明します。そして、患者さまの疑問や不安を伺います。医療や看護を提供するのは病院関係者ですが、順調な回復のためには、やはり患者さま自身の理解と協力が重要です。また、入院中や退院後の生活の変化やサポートの必要性等も把握して、必要であれば退院調整を始めます。外来からの情報や入院前の面談によって得た大切な情報の記録は、病棟の看護師にもつないでいきます。

退院後も情報を引き継いでいく

入院時に病棟では、専用の記録用紙を使用し退院時支援介入が必要な患者さまの把握をします。
その情報を基に、週1〜2回多職種退院支援カンファレンスを実施するのですが、内容としては、患者さま・ご家族の治療や退院に関する希望を把握した上で、治療の状況、それに対する多職種の見解などを基に退院に向けた目標設定を行い、患者さまと共に退院を目指します。
入退院支援室のスタッフは、介護保険被保険者で担当のケアマネージャーがいらっしゃる方に関して、患者さま・家族の許可を得て入院中から退院前にかけて情報の共有を行います。早期に入院前の生活状況、住居環境、介護保険サービスの利用状況の把握や退院時における課題の抽出を行うことで、安全な生活環境と外部サービスの調整が行えると考えています。
退院支援は、「退院がゴール」ではありません。自宅での生活を見据えた退院がゴールです。当院に外来通院される方に関しては、週1回外来継続カンファレンスを開催しています。対象者は、傷の処置・人工肛門造設後の管理・自己注射・服薬管理や、介護保険サービスの利用内容を調整した方です。このような方々が、自宅で問題なく処置を継続しながら生活できているか、困り事はないかを確認するため、病棟→入退院支援室→外来へ情報を共有しながら、当院全体で対応していく体制をとっています。その中で、社会的・経済的課題を抱えている方は、ソーシャルワーカーへ情報提供を行います。

退院調整の内容も一人ひとりで異なる

患者さまは性別や年齢も違えば、抱えている事情もさまざまです。
例えば、子どもがまだ小さく仕事をもつ女性ががんの手術で入院される場合、病気はもちろん、育児や仕事、金銭面など、大きな不安を抱えているでしょう。入退院支援室では、患者さまの生活状況や不安を専門の医療スタッフにつなげ、適切な情報の提供と身体的、精神的、社会的なサポートを行います。
安心して治療を続けられる環境を整え、退院後も外来に情報を共有しサポートを継続します。
また、整形外科の手術を受けた高齢の方が、ご自宅に退院される場合は、住環境の確認が必須です。一軒家とマンションでは、退院後の生活に必要なADL(日常生活動作)が大きく異なりますし、坂道や階段の有無など立地でも変わります。今の住環境で退院後の生活が難しいと予測される場合は、ご家族・在宅サービス関係者・入退院支援看護師・病棟看護師、ソーシャルワーカーなどが連携して退院調整を行う必要があります。また、住環境に合わせて必要なADLをリハビリテーション科と共有、ゴールを設定し、患者さまにも目標をご理解いただき退院を目指せる環境を作っています。
まだ限られた数ですが、入退院支援室で退院調整を行った患者さまへの退院後訪問も、患者さまとご家族の許可を得て訪問看護師に同行する形で行っています。退院後訪問で確認した内容を評価して今後の支援に還元したいと考えています。

その人らしく過ごすための支援を

高齢社会の今だからこそ、高齢者の方には自分らしく過ごしてほしいと思っています。患者さまの思いを今の状態では無理だからとすぐに諦めるのではなく、多職種で検討しクリア可能な目標を段階的に設定していくことで実現できることもあります。
患者さまの意思に寄り添う支援は、入退院支援室の看護師だけでできることではなく、多職種で連携していかなければ実現することはできません。私たちはそうした連携のためのパイプ役です。当院は地域密着型の病院で、世代を超えて通ってくださる方も多く、患者さまに選ばれる病院であり続けたいと思っています。
入退院支援室の看護師は役職者が多く経験年数があるため、自分の役割を理解し、患者さまやご家族の意思に寄り添いながら仕事に取り組んでいます。
入院前の面談では病気のことだけではなくて、生活のことなど些細なことでもお話しください。患者さまやご家族がその人らしく生活していける環境を整えるお手伝いをさせていただきたいと思っていますので、何かありましたらお声掛けください。

プロフィール

栗原 美知子(くりはら みちこ)

栗原 美知子(くりはら みちこ)
入退院支援室看護師

看護師免許取得後当院に入職、全科対象全個室、外科、内科、教育担当、地域包括ケア病棟で勤務。
2022年度師長補佐に就任し、COVID-19病棟では感染症管理業務と転院・退院調整を実施。
2024年度入退院支援室に配属、患者が安心安全に入院医療を受けられるように入院前支援を全診療科へ拡充、退院後もその人らしく生活できるように地域医療機関・施設との連携強化を目指し活動。

鈴木 和美(すずき かずみ)

鈴木 和美(すずき かずみ)
入退院支援室看護師

看護師免許取得後、聖マリアンナ医科大学病院に入職し消化器内科で勤務。
その後、ライフイベントに合わせ国立病院、企業病院での勤務を経験。2004年より北里研究所病院勤務となり、消化器内科・泌尿器科・婦人科、ICU、全科対象全個室、地域包括ケア病棟などで勤務。2012年から係長就任、2019年NST(栄養サポートチーム)の一員として多職種と協働し栄養管理に関する活動を行っている。
現在は、2022年度新設された入退院支援室に配属となり、院内外の関係者と"顔の見える連携強化"を図りながら、「その人らしく生きる」ための退院調整を目指し活動している。

北里柴三郎博士特別展のご案内

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