大学病院の薬剤部というと、「裏方」のイメージをもたれるかもしれません。しかし当院の薬剤師は、患者さまにとって身近な存在です。薬剤部の多様な役割と、当院の特色である「臨床」「教育」「研究」の三位一体の薬剤部づくりについてご紹介します。
医師や看護師らが忙しく出入りする病棟のスタッフセンター。その一角にある「サテライト・ファーマシー」には、薬剤師が常駐し、医師や看護師、その他のスタッフと連携しながら「臨床薬剤師」として活躍しています。
全病棟にサテライト・ファーマシーが設置されたのは1999年。薬学においても臨床を重んじる北里では、早くから「薬剤師を病棟に」という計画がありました。それが、現在の病院棟の開設をきっかけに実現。当時の病院としては先進的な試みでした。
臨床薬剤師の仕事は、患者さまのお薬の服用歴やアレルギーの有無を確認することや、医師や看護師への医薬品の情報提供や使用方法のアドバイス、患者さまのベッドサイドでの服薬指導や薬物療法の効果の確認など多岐にわたります。
薬剤師が近くにいることは、患者さまにとって、お薬について気軽に質問できるというメリットがあります。また、医師や看護師にとっても、患者さまの状態を理解している薬剤師とともに、一人ひとりに最適な薬物療法について話し合うことができ、よりきめ細かなケアが可能になります。臨床薬剤師は、「病棟の患者さまの薬物療法には、自分たちが責任をもつ」という気概のもとに、日々の業務にあたっています。
また、糖尿病の治療や感染制御、栄養管理、緩和ケアなど、薬物療法が大きく関わる治療には、薬剤師の存在が欠かせません。医師や看護師、栄養士、検査技師などとともに、それぞれが専門知識を出し合う「チーム医療」にも積極的に参加しています。
特に臨床に関わる薬剤師には、医薬品に関する幅広い知識と経験が必要です。同時に、感染症やがん、糖尿病といった個々の病気の治療に使われる医薬品についての専門知識も求められます。つまり、ジェネラリストであるとともに、スペシャリストでなくてはならないのです。
こうした人材の育成には、薬学に関する知識だけでなく、実地での経験が欠かせません。当院では年に3期、隣接する北里大学薬学部の5年生の実務実習を受け入れ、指導に関わっています。また、1年生の病院見学は年に4回。合計100人ほどの薬剤師の卵が当院を訪れ、現場のスタッフから病院薬剤師業務について学んでいます。
さらに、2002年度には日本で初めて「薬剤師レジデント制度」を創設。大学院修了後に病院で薬剤師として働きながら研修を受け、資質を向上させる制度で、現在は卒業後1年間のコースを設け、即戦力となる人材育成を行っています。
大学・病院間の連携も密に行われています。薬剤部には、薬学部の教員が常駐しているため、協力体制がつくりやすい環境にあります。病院での日々の業務の中で出てきた課題を解決するため、大学の技術や知識を借りることもしばしばあります。逆に、学部生の卒業研究の指導にも積極的に協力しています。研究倫理委員会の許可を得て、薬剤部に蓄積された臨床データをもとに共同研究を行うこともあります。臨床・教育・研究の三本柱のもと、相互に補完し合い、より高いレベルをめざして研鑽を積んでいます。
薬剤部では、入院される患者さまと最初に面談をさせていただき、これまでの医薬品の服用歴・使用歴や、持参されるお薬、アレルギーや副作用の有無などについて聞き取りを行っています。そのうえで、医師や看護師と今後の薬物治療の方針を相談します。現在では、9割以上の入院患者さまに初回面談を実施しております。
他院で処方された薬や市販薬・健康食品の使用など、「医師には話しづらいが、薬剤師になら気軽に話せる」という患者さまもいらっしゃいます。入院中も、病棟には薬剤師が常駐しておりますので、お薬のことに関してご質問をいただく機会も多くあります。
薬剤部のモットーは2つ。お薬について、わかりやすくていねいな説明をすること。そして、患者さまの訴えを十分に聞き、確認をしたうえで適切な対応をすること。基本的なことですが、医薬品は種類が多く、患者さまによって使用法にもさまざまなケースがあります。すべてのケースを予見するのは難しく、患者さまが知りたいこととは異なる回答をしてしまい、お叱りを受けることもあります。その都度、真摯に受け止め、次こそはベストな対応ができるよう努めています。
すべての患者さまに安心してお薬を服用していただくために、医薬品のプロフェッショナルとして、お薬のことなら何でも相談していただける身近な存在であること――それが、私たちの描く「心ある医療」のかたちです。