年齢を重ねると病気だけではなく、身体機能の低下に伴い今までできていたことが困難になり誰かに手を借りなければならないこともあります。また、病気も慢性化しやすく治療方法によっては身体的に大きな負担となることもあります。老人看護専門看護師は、さまざまな機能低下や、病気を抱える高齢者とご家族に、高い水準の医療を提供しつつ、最期までご自身の持てる力を最大限に引き出しその人らしく過ごしていただけるようお手伝いをさせていただくことが大きな役割です。
高齢者は、入院生活により日常生活機能が低下し影響を受けやすくなります。その影響が最小限になるようにチームで取り組んでいます。また、周囲が良かれと思って行ったことが、ご本人のペースを乱し、自尊心を傷つけてしまう行為になってしまうことがあります。支援側は、「良かれと思って」の行動だからこそ、ご本人の気持ちに
寄り添えていないことに気づきづらくなります。これでは高齢者がその人らしく生活しているとは言えないのではないでしょうか。ご自分の持てる力を引き出しながらも、受ける支援のちょうどよいバランスを探すことがとても大切だと考えています。そのため、老人看護専門看護師として、高齢者を主体的に捉え支援とのバランスを
探すことのお手伝いも多職種で行っています。
また、認知症の方の怒りやひとり歩き(徘徊)は、ご本人だけでなくスタッフにとっても疲弊感や困難感を抱きやすい行動の一つです。この行動の背景には、認知症の方の困惑や不安などの困りごとや、不調から生じる苦痛があります。支援側がどうして良いのかわからず「大変だな」と感じるだけでなく、「何に困っているんだろう」「何を伝えたいのだろう」とご本人の思いやニードを考えながらケアを行うことで、本当に必要なケアが可能になります。そして、大変だと感じていた状況が徐々に改善していくことが少なくありません。私自身も何度もそのような経験をしてきました。そのため、患者さまだけでなく、スタッフにとっても少しでも心地いいケアができるように、スタッフと一緒に考え、時にはトライ&エラーを起こしながらも支援していくことも老人看護専門看護師の役割の一つと考えます。
そして、日々のケアの中でお話を「聴く」ことを大切にしています。私もスタッフも80歳、90歳の老いの経験はありません。そのため、分かったつもりにならず、真摯な姿勢で向き合っていくことが重要だと思います。目線をあわせて話しかけ、相手の反応を待ちながらきちんと「聴く」、それがケアの始まりだと考えています。
誰に相談したらいいんだろう、話したいなと思うことがあったら、ささいなことでもいいので是非お声掛けください。ささいなことの下に大きな困りごとが隠れている可能性もあります。とくに高齢者やそのご家族の方に、よろず相談所のように思っていただければと思います。
小島 沙希子(こじま さきこ)
老人看護専門看護師
看護師免許取得後、北里大学病院に入職し整形外科、集中治療室で勤務。その後、2014年より北里研究所病院勤務となり神経内科、消化器内科、地域包括ケア病棟などで勤務。2021年大学院修了後、老人看護専門看護師の認定を受け高齢者医療推進のため組織横断的にチーム活動を中心に活動している。また、エンドオブライフケアにも注力しておりリビングウイルセミナーなども多職種で開催している。