新年あけましておめでとうございます。
昨年は、長らく猛威を振るったコロナ感染もようやく収束し、病院も日常を取り戻した感があります。検診や通院をコロナ禍で控えておられた方々も、病院に足を向けるようになられたようです。これはコロナ禍で見過ごされがちの健康維持や疾病予防に、皆さまの関心が戻ったといえましょう。
当院の前身は1893年に北里柴三郎博士が福澤諭吉翁の援助で研究所に併設された、わが国初の結核専門病院「土筆ヶ岡養生園」です。その後、1917年には北里研究所附属病院として改組され、現在に至っております。北里柴三郎博士は破傷風菌の純粋培養や治療法の開発、ペスト菌の発見、さらには我が国の予防医療の構築に貢献しました。そして本年は新千円札に登場することになりました。このことは、当院の職員の一人として大変誇りに思います。
昨年、歴史と伝統ある東洋医学総合研究所が北里研究所病院漢方鍼灸治療センターとして改組されました。自前の生薬を提供できる数少ない施設として、診療や西洋医学と東洋医学の融合を進め、患者さまの様々なご要望にお応えしてまいります。また、泌尿器科に次いで婦人科にも導入された最新手術支援ロボットHUGOも順調に稼働しており、本年は直腸がんなど消化器外科にも導入していく予定です。
再生医療の導入も進めていきます。既に昨年度は多血小板血漿(PRP)療法を導入いたしました。PRPは自己の血漿を用いて様々な疾患の自然治癒力をサポートする画期的な治療法です。とくに膝の変形にともなう痛みに、PRPを積極的に用いています。さらに自己脂肪幹細胞を用いた再生医療を、主に動脈硬化性疾患や美容に順次導入してまいります。
当院は日進月歩の医療技術を取り入れ、あらゆる方々に心ある医療を実践していくため、最新の設備を備えていきます。近年増加の一途をたどる眼科疾患や消化器疾患に対応するために、内視鏡センターを整備し眼科外来を移設拡大する予定です。一方で効果的な不妊治療、炎症性腸疾患の分子標的薬による治療、最新美容医療、腸閉塞に対する腹腔鏡下手術などユニークな医療分野もさらに展開してまいります。
北里研究所病院は今年も港区を中心とした近隣、つくし会会員の方々など多くの方の健康をお守りするために職員一同邁進してまいります。
北里研究所病院は院内感染の予防と制御に関する専門部署である感染管理室を設置しており、医師の室長を筆頭に多職種が在籍しています。感染管理認定看護師のうち1名が、看護師長として感染管理室に配属され、専従で仕事をしています。そして看護部にも兼任で働く感染管理認定看護師がおります。感染管理室は組織的な活動が多いことが特徴です。各部署の職員への教育・指導、感染対策マニュアルの作成や院内の感染状況を経時的に集計していくサーベイランスなどを行っています。職員から相談を受けて解決策を考えたり指導をすることも多く、業務は多岐にわたります。
院内の感染管理において大きな問題となるのは薬剤耐性菌です。もともと私たちの体の中に存在している菌が抗菌薬の使用により変異して抗菌薬が効かない、あるいは治療薬の選択が非常に限られてしまった菌のことで、患者さまにとっては重症化や死亡の要因となります。重症者が多く入院するような病院において薬剤耐性菌の発生自体は珍しいことではなく、感染対策に不備があれば、薬剤耐性菌がヒトからヒトへ感染し、ヒトから環境へとどんどん広がります。他の患者さまに移さないためには感染対策が重要になります。
薬剤耐性菌を増やさないためには抗菌薬の適正使用が必要であり、感染管理室では適正使用の指導も行っています。抗菌薬はとても大切な薬ですが、薬剤耐性菌が広まることで今使っている抗菌薬が将来的に使えなくなる可能性があります。これは世界的にも大きな問題になっています。新規抗菌薬の開発には莫大なコストと時間がかかり、開発は縮小傾向にあるのが現状です。そのため、今ある抗菌薬を次世代に残すためにも適正使用が非常に重要なのです。外来の患者さまも、抗菌薬を処方された際に「最後まで飲み切るように」と医師から説明を受けたことがあるかもしれません。指示通りの服用は、ご自身のためであることはもちろん、子どもや孫世代のために重要なことをご理解
いただければと思います。
抗菌薬はとても大切な薬ですが、感染症にかからず抗菌薬を使わずに済むことが一番です。アフターコロナといわれる現在も、当院ではマスクの着用をお願いする院内放送を続けています。感染症はコロナだけではありません。免疫の弱っている方に感染症をうつさないためには、院内ではマスクをつけて手指消毒をする、体調の悪い時は面会を控えるなどの配慮をしていただくことがとても重要です。コロナ禍の経験を経て、感染症予防の大切さをご理解いただける方が増えたと思います。引き続きご協力をお願いします。