北里研究所病院は患者さまへの負担が少ない腹腔鏡手術を得意としています。
大腸がんや腸閉塞の手術でも負担が少なく、手術後の回復も良好で患者さまから高い満足度を得ております。
大腸がんにかかる方は年々増加傾向にありますが、早期発見すれば転移の可能性が低く根治する可能性の高いがんです。早期の大腸がんは無症状ですが、健康診断の便潜血検査で陽性となり大腸の内視鏡検査を受けることで発見されることが比較的多くあります。しかし、残念ながら便潜血検査を受けていなかったり、陽性でもそのまま放置する方が少なからずいらっしゃいます。大腸がんが進行すると、腹痛や血便、体重減少、おなかの張り、残便感、繰り返す下痢や便秘などさまざまな症状が出てくるのですが、症状が出ても放置して進行した状態で病院に行く方が多いため、大腸がんは日本人の死亡原因として、女性で第1位、男性でも上位となっています。これはたいへん残念なことです。
大腸がんの発見には、便潜血検査を積極的に受けていただくこと、大腸がんを疑う症状があったら病院に行くことがとても大切です。
大腸の内視鏡検査は比較的楽に受けることのできる検査のひとつです。検査の際は鎮静剤と鎮痛剤を使いリラックスした状態で受けられる工夫をしています。なかには寝ている間に検査が終わったとおっしゃる方もいます。特に当院は大腸の内視鏡が上手な先生が大勢おりますので、安心して検査を受けていただければと思います。
内視鏡検査の結果、大腸がんが発見された場合は、さらにCTなどの検査を行って治療方針を決定します。大腸がんの根治を目指す治療は原則として手術であり、中でも、当院は腹腔鏡手術を得意としています。腹腔鏡手術は、腹部に小さな穴を数か所開けて、炭酸ガスで膨らませたおなかに腹腔鏡(カメラ)や手術のための鉗子を挿入して、モニタで術野を確認しながら行います。一般的に腹腔鏡手術は、開腹手術と比べると傷が小さく痛みも少なく患者さまへの負担が少ないため、術後の回復が良好です。また傷が小さいため癒着のリスクも低く、腸閉塞も起こりにくいとされています。
腸閉塞とは、腸の中で内容物が流れなくなる状態のことで、腹痛や腹満、嘔気や嘔吐などの症状が起こります。原因はさまざまありますが、最も多いのは開腹手術で起きる癒着性腸閉塞です。開腹手術を行うと傷が治る際にその裏側にある小腸が一緒にくっついて癒着することがあります。小腸は本来おなかの中を自由に移動する臓器なのですが、癒着した箇所を中心にねじれ、内容物が通りにくくなって腸閉塞となります。
腸閉塞の治療として一般的なものは絶食や輸液、減圧などの保存的治療ですが、保存的治療を行っても腸閉塞を繰り返す患者さまには癒着を剥離する腹腔鏡手術が必要です。当院のホームページなどを調べて腸閉塞外来を受診される方が多く、手術適応の癒着性腸閉塞の患者さまは手術を選ばれることが殆どであり、多くの手術を行っています。
腸閉塞の手術の難しいところは、癒着をきれいに剝がして癒着防止剤を使用し、癒着をさせないために精一杯の努力を行っても、ヒトが持つ体にある傷を治そうというしくみによって、癒着が再発する可能性が大いにあるということです。検査の結果、手術を行うことになった場合、術前に再発する可能性があることをしっかり説明して十分にご理解いただいてから腹腔鏡手術を行います。嬉しいことに、手術を受けられた多くの方の満足度が非常に高く、以前は食べられないものが食べられるようになったなど良い感想をたくさんいただいています。
日本では、13万人以上の患者さまが癒着性腸閉塞を発症していて、そのうち3万人が腹部手術を受けています。7割以上の患者さまはチューブによる腸管減圧をはじめとした保存的治療を受けていると言われています。
癒着を解消しない保存的治療と、新たな癒着を生じさせる可能性のある外科的治療のどちらを選択すべきかは、依然として議論の的となっています。例えば3万2583人の癒着性腸閉塞による入院患者を対象とした研究では、2万4648人(76%)が保存的治療を受け、このうち1万8093人(73%)は再入院を必要としなかったという報告や、別の研究では、初回入院時に外科的治療を受けた癒着性腸閉塞の患者262人のうち66%が再入院を必要としなかったという報告もあります。しかし、系統的レビューとメタ分析によると、癒着性腸閉塞の外科的治療は、将来の再発リスクが低いことと関連しており、少なくとも絞扼(※腸管の圧迫による血流障害)の疑いが低い症例では、外科的治療を受けた患者と保存的治療を受けた患者の間で、死亡率、合併症発生率、術後在院日数に顕著な差はみられなかったという報告もあります。さらに、再発を繰り返す癒着性腸閉塞患者を対象とした研究では、大腸がん術後に発症する腹部症状に対して保存的治療を繰り返すことにより、再発率が徐々に上昇し、保存的治療の効果自体も徐々に減弱することが報告されています。
再発を繰り返す癒着性腸閉塞患者は大腸がんの年間あたりの罹患数に匹敵します。多くの患者さまが悩まれているのはいうまでもありません。
外来で保存的治療を続けてきた患者さまから、料理番組が嫌で仕方がない、家族の中で自分だけいつも別メニューなのが寂しい、生涯スープだけの食事は切ないなどと辛い胸の内を伺うと、食事の制限がいかに大きな楽しみを奪うのかと思います。今も保存的治療を続けて毎日辛い思いをしている方が、手術を受けることで少しでも良くなるのであれば、是非一人でも多くの患者さまの
お力になりたいと願っています。
外科というのは患者さまの身体に傷をつけて治療をする科なので、病気を治すということに対して全力で丁寧に対応させていただきたいと思っています。病気だけではなく患者さまご本人に向き合い、その方らしさを常に尊重して一緒に病気に向き合ってまいりますので、是非気兼ねなく相談にいらしてください。
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矢部 信成(やべ のぶしげ)
一般・消化器外科 副部長
1998年東京慈恵会医科大学卒業、慶應義塾大学外科
学教室に入局。
慶應義塾大学で研修し、稲城市立病院、太田記念病院で研鑽し、慶應義塾大学外科学教室助教で帰室後は、聖母病院、荻窪病院外科部長を経て2023年当院一般・消化器外科副部長に着任し現在に至る。
日本外科学会専門医・指導医、日本消化器外科学会専門医・指導医、日本大腸肛門病学会専門医・指導医、日本臨床肛門病学会臨床肛門病技能認定医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医・学会評議員、日本内視鏡外科学会評議員、日本乳癌学会乳腺認定医、日本消化管学会専門医・指導医・代議員、日本医師会認定産業医など。
日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本障がい者スポーツ協会公認障がい者スポーツ医であり東京2020オリンピックメディカルドクター、東京2020パラリンピックメディカルドクターを歴任。