MRI・CT・乳腺エコー・マンモグラフィなど各種画像検査による良性・悪性の判定と、マンモグラフィ読影認定医・針摘出生検などを駆使し、専門医による正確・迅速な診断を心がけております。
乳房超音波検査では、病変の形状、境界部、内部エコー、点状高エコーの有無、後方エコーなどを観察します。超音波検査で描出される異常所見は、腫瘤像として認識できる腫瘤像形成性病変と、認識できない腫瘤像非形成性病変に大別され、各々に対してカテゴリー判定のガイドラインが定められています。乳腺では、良性疾患と乳がんが類似の画像所見を示すことがあります。所見をカテゴリーにあてはめるという機械的なカテゴリー判定には、誤診を招く危険性も含まれています。このような誤診を防ぐため、ガイドラインに基づくディスカッションを行い、さらにマンモグラフィ、超音波診断、MRI等から得られた所見を総合的に評価しています。
マンモトームとは、画像ガイド(超音波ガイドまたはステレオガイド)で使用する特殊な吸引式組織生検システムです。腫瘤などの超音波検査で病変が描出可能なものは超音波ガイド下で行い、微細石灰化像などのマンモグラフィでしか描出されない病変に対してはステレオガイド下で行います。 従来の針生検に比べ、小さな傷でより多くの組織を採取し、病理組織診断が行えるのが特徴です。
超音波ガイド下マンモトーム生検
通常、超音波で検出可能な病変に関しては細胞診や針生検を行います。しかし、なかにはこれらの検査でも診断がはっきりしないこともあります。今まではこのような症例に対して外科的摘出生検を行うことがありましたが、マンモトーム針を用いることで大きく皮膚切開をしなくても診断がつけられる可能性が高くなりました。従来の針生検との違いは、1回の穿刺でより多くの検体が採取できることです。傷も3~4mmと小さく、外科的切開生検のように乳房の変形もおこりません。検査時間は約20分であり、検査後20分ほど圧迫止血し、異常がないことを確認してから帰宅していただきます。
ステレオガイド下マンモトーム生検
微細石灰化病変のように「超音波でははっきりしないがマンモグラフィでは検出できる病変」が適応になります。石灰化の多くは良性ですが、ごく早期の乳がんが石灰化で発見されることがあります。石灰化の悪性度はその形状や分布から5段階にカテゴリー分類されます。1~2は良性、3は良性だが悪性を否定できない、4は悪性の疑い、5は悪性と考えられる病変となります。カテゴリー3以上の場合、マンモトームの適応になります。
腫瘤や微細石灰化像など、乳がんのあらゆる所見に対して、針生検などを用いて診断を行います。また、当院では乳がんの診断にあたり特殊な免疫染色方法を用いてがん細胞の生物学的特徴を診断し、治療方針の決定に役立てています。
病期分類 | 概要 |
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非浸潤がん | 乳がんは発生した部位の近くにとどまり、周囲の組織に広がっていない。非常に早期の乳がん。 |
病期 I | 腫瘍の大きさが2cm未満で、乳房の外に広がっていない。早期乳がんと呼ばれる。 |
病期 II | 腫瘍の大きさが2cm以上5cm未満で、腋窩リンパ節まで広がっている場合もある。局所進行乳がんと呼ばれる。 |
病期 III | 腫瘍の大きさが5cm以上で、腋窩リンパ節にかなりの転移があるか、他のリンパ節や乳房周囲に転移や浸潤の及んでいる場合もある。 |
病期 IV | がんが体の他の器官、特に肺、骨、肝臓、脳などに転移をきたしている場合であり、転移性乳がんと呼ばれる。 |
医学の進歩した現在であっても、根治的な乳がん治療の大原則は外科的切除です。再発の危険性があるため「切らずに治す」ことは標準的治療ではありません。
しかしながら、当院では可能な限り乳房や腋窩リンパ節を温存できるように工夫し、エビデンス(科学的根拠)に基づいた質の高い「がんの根治性と乳房の整容性を重視した治療」を心掛けております。
また、内視鏡手術や乳房再建術によって創部や乳房の変形が目立たないように工夫をしています。
※当院では下図のような割合で手術を行っています。
腫瘤摘出術
おもに、良性と判断される腫瘤(しこり)や悪性の可能性を確実に除外することができない腫瘍性病変に対して診断かつ治療を目的とした手術です。病変のみをくり抜くように手術するため、小切開で行います。
乳房温存術
腫瘍周囲の乳線組織を切除し、可能な限り乳房を残す手術です。手術中に迅速病理診断を行い、切除した乳腺の断端にがん細胞が残っていないことを確認します。現在、多くの場合、この術式で治療を受けることが可能ですが、腫瘍の大きさや数、病変の状態によっては、適応外となることもあります。
乳房温存術をお受けになった場合は、局所再発を予防するために、原則として術後放射線照射が併用されます。
また、当院では術前化学療法やホルモン療法により、可能な限りしこりを小さくすることで乳腺の切除範囲を縮小し、整容性に優れた乳房温存術を行うこともできます。
乳房切除術
乳頭乳輪を含め、乳腺を全て切除する術式です。当院では最も頻度の少ない術式です。
乳頭乳輪温存乳房切除術及びエキスパンダー挿入術
腫瘍が大きい場合や広範囲な乳管内病変が認められるために乳房を温存することが難しい場合、乳房温存手術後に放射線照射を受けることのできない場合でも、乳房再建手術を希望される方が受けられる術式です。術前の画像検査精度や乳房再建技術が向上し、この術式による手術が年々増加傾向にあります。お胸を残したい方のために、形成外科と連携し、積極的に取り組んでおります。
乳がんに限らず、一般的にがんにおける手術では原発巣(がんの本体)だけでなく、再発予防のために所属リンパ節(原発巣周囲にあるリンパ節)を一緒に切除することが標準的です。乳がんの場合、患側(病気のある方)の腋窩(脇の下)のリンパ節を切除することが標準的な手術方法とされていましたが、近年、センチネル(見張り)リンパ節生検により、腋窩リンパ節郭清を省略することも可能になりました。
腋窩リンパ節郭清
再発予防を目的に患側の腋窩リンパ節を全て切除する術式です。現在では、術前の画像診断で明らかにリンパ節転移を認める場合や細胞診でがんの転移が確定している場合以外では行われることが少なくなりました。合併症として、患側上肢の挙上障害、上腕内側の感覚障害、リンパ浮腫などを発症する可能性があります。頻度としては多くありませんが、合併症が生じた場合には、当院ではリハビリテーション科と連携し、症状の緩和に努めております。
センチネルリンパ節生検
がん細胞がリンパ管に入り、最初に転移すると考えられるリンパ節をセンチネルリンパ節といいます。手術中にセンチネルリンパ節を2~3個生検し、迅速病理診断を行い、がん細胞の転移を認めなければ、腋窩リンパ節郭清を省略することが可能です。当院では色素法とアイソトープ法を併用することで、より確実なセンチネルリンパ節の同定を行っております
乳がんによって失われた乳房を新たに作る手術が乳房再建術です。大きく分けて、自分の組織(自家組織)を使用する方法と人工乳房(インプラント)の二つの方法があります。
背部の筋肉や腹部の筋肉を用いる筋皮弁法があります。健康保険の適応となる乳房再建術は、自家組織による方法です。これは、皮膚・皮下脂肪・筋肉を移植する方法です。皮膚が足りているときは、皮下脂肪と筋肉のみ移植します。
自家組織による再建では、移植した皮膚は乳房の皮膚とは異なるため、パッチワークのような状態になります。また、移植した組織も血の巡りが悪くなると、一部が腐ってしまうことがあります。また、採取部には大きな傷が残ります。
また、脂肪吸引と脂肪注入の組み合わせによる乳房再建に関しては、自家組織を用いていても健康保険の適応はなく、自費治療になります。
大胸筋の下に人工乳腺を入れるだけの簡単な方法を「インプラント単純挿入法」といいます。
皮膚に余裕がないときはティシューエキスパンダー(組織拡張器)と呼ばれる大きめのインプラントを入れ、徐々に生理食塩水を注入し、皮膚が伸びてから通常のインプラントに入れ替える「組織拡張法」を行います。3ヶ月~6ヶ月後に、皮膚が十分に伸びて、インプラントの周囲に皮膜によるポケットが完成したら、組織拡張器を抜去しインプラントを挿入します。外科による手術時に、ティシューエキスパンダー(組織拡張器)を挿入し、後ほど再建方法を選択することも可能です。
乳腺全摘術と同時に再建する場合とあとで二期的に再建する場合があります。術後に放射線治療などが必要となる場合は、一期的再建は難しくなります。
乳頭・乳輪を温存しない場合でも、乳房再建後に乳頭乳輪再建を行うことが可能です。自家組織による再建方法や、人工乳頭・乳輪を作る方法などがあります。
乳がんの治療に用いられる薬物療法(全身療法)では、化学療法(抗がん剤)、内分泌療法(ホルモン療法)、分子標的療法を必要に応じて単独または併用して治療を行います。これらは治療時期によって術前、術後、再発の3通りに分けられます。薬物療法は、病理診断の結果を踏まえ、組織型・腫瘍の大きさ・転移の状況等を指標として適応を判断します。
術前薬物療法は手術ができない局所進行型の乳がんや炎症性乳がんを主な対象として始まりました。その後、手術が可能な場合も乳房温存率を向上するために術前薬物療法が行われるようになりました。これは、「乳がん細胞は、診断されたときには全身に転移している可能性が高く、全身に効果の及ぶ治療の早期実施が必要である」との考えが広がったためです。また、がん細胞が縮小・消失することで乳房温存率が高まるだけでなく、予後が良くなる可能性も高いことが明らかになりました。
[術前薬物療法の特徴]
手術後に行う薬物療法を「術後薬物療法」といいます。全身に広がっている可能性のあるがん細胞に対して治療を行い、乳がんの再発率と死亡率の両方を低下させることが目的です。
抗がん剤を用いてがん細胞を破壊する治療法です。乳がんの場合は数種類の薬を組み合わせて行われることが一般的です。従来からタキサン系またはアンスラサイクリン系と呼ばれる薬剤が用いられておりますが、近年は様々な薬剤の有効性が期待されています。また、抗がん剤には内服薬と注射薬がありますが、いずれも薬剤が血流に乗って全身に分布するので、化学療法は全身療法の一つと位置づけられます。化学療法は繰り返し行われることが多く、効果や副作用の程度などによって、投与量の変更や他の薬剤への変更が行われることもあります。ほとんどの場合、化学療法は通院で行われますが、薬の種類や患者さまの状態によっては入院で行われる場合もあります。
抗がん剤治療では、抗がん剤ががん細胞を死滅させる一方で、消化管の粘膜や骨髄、毛根部などにある増殖が活発な正常な細胞にも影響を及ぼす可能性があるため次のような副作用が生じる場合があります。
副作用 | 原因や予防方法 |
---|---|
脱毛 | 脱毛は、抗がん剤治療で生じやすい代表的な副作用の一つです。抗がん薬の種類によって差がありますが、特にタキサン系の抗がん剤で頻度が高くなります。通常は抗がん剤治療を開始して3週間で抜け始めますが、投与後は髪がまた生えてきます。抗がん剤を投与中はウイッグ(かつら)やバンダナ、帽子を準備しておくといいでしょう。 |
吐き気 | 吐き気や嘔吐は、投与後24時間以内に出る「急性」、24時間後から4日目ぐらいまで続く「遅延性」、抗がん薬のことを考えただけで出る「予測性」の3つのタイプに分けられます。副作用だから仕方がないと我慢しないことが重要です。抗がん薬療法を円滑に進めるためにも治療開始時から対策をしましょう。 |
口内炎 | 抗がん薬を治療開始して7~10日後に口内炎ができることがあります。治療後は2~4週間で治るのが一般的です。また、痛みから口腔ケアが不十分になると、症状がさらに悪化するという悪循環になるため、口の中を清潔に保つことが大切です。吐き気や嘔吐の影響で食事がとれない場合でも、唾液の分泌量が少なくなることで口の中の細菌が増え、口内炎の発症や悪化につながります。炎症を防ぐには、1日1.5~2リットルの水分摂取も有効です。カフェイン入りの飲料やアルコール類は、脱水を促すので禁物です。 |
味覚障害 | 抗がん剤の副作用で口の中が乾燥していると、食事をしても味の成分がうまく運ばれず、味が分かりにくくなります。うがいをして口の中が潤った状態にしておくと味覚トラブルを予防できます。通常の食事だけでは栄養が不足する場合は、液体やゼリータイプの栄養補助食品を加えてみたり、医師に「濃厚流動食」を処方してもらいましょう。 |
便秘や下痢 | 抗がん薬で腸の粘膜がダメージを受けると下痢になります。整腸剤や下痢止めを処方してもらいましょう。 便秘の場合は下剤を使いながら、食物繊維の多い野菜や果物を食べたり、腸の動きがよくなるように適度な運動を心掛けましょう。 |
免疫力の低下、貧血 | 抗がん薬は血液を作る細胞にも作用するため、白血球や赤血球、血小板の減少を来すこともあります。白血球の減少にともない病原菌を攻撃する免疫力が弱くなると風邪や肺炎などの感染症にかかりやすくなるので、手洗いやうがいなどで予防しましょう。白血球(好中球)の減少により発熱(発熱性好中球減少症)には、速やかに抗生物質や好中球を増やす薬の投与が必要です。 また、赤血球が減少すると貧血を生じます。血小板が減少すると出血しやすくなります。これらの症状が強く出現する時は治療が必要になります。 |
心毒性 | アンスラサイクリン系の抗がん薬(アドリアマイシン、エピルビシン)は、稀に心臓に対する副作用が生じます。「心臓のどきどき」「息苦しさ」「体のむくみ」がある場合は、心臓への副作用、心機能障害の可能性があります。このような症状は、抗がん薬の投与後5年以上経過してから起こることもあります。定期的に心機能検査を受けましょう。 |
末梢神経障害 | タキサン系抗がん薬では「手や足のしびれ」「ピリピリ感」「感覚の鈍化」などの末梢神経障害が見られることがあります。 |
手足症候群 | おもに5-FU系のカペシタビンなどの副作用として、手のひらや足の裏の刺すような痛み、感覚のまひ、腫れ、発赤、発疹などがあります。抗がん薬の治療期間中は、手足を使う作業は避けることをお勧めします。腫れが生じた場合は冷却し、乾燥肌には保湿クリームを塗ってケアしてください。 |
血管炎 | アントラサイクリン系の抗がん剤やビノレルビンは、血管痛(注射部位や点滴液を投与した血管に沿う痛み)によって、血管の硬化や肘関節が動かしにくくなります。抗がん薬の注射や点滴液が血管外に漏れることで皮膚障害を来します。また、点滴中の異常な痛みや、針の周囲の膨らみなどの異変を感じたら、速やかに処置を受けましょう。 |
乳がん細胞の中には女性ホルモンのエストロゲンの刺激によって、増殖するものがあります。乳がんの約7割がこのタイプで、ホルモン療法の対象になります。ホルモン療法では、このようながん細胞に女性ホルモンを与えないようにします。薬を用いてエストロゲンの作用を阻害、あるいはエストロゲンの産生を抑制します。ホルモン療法は、化学療法より比較的副作用が少ないという特徴があります。術前ホルモン療法として用いる場合は一般的に4~6カ月、術後薬物療法の場合は最低5年間は継続して治療します。また、閉経前と閉経後の女性では治療に使われる薬剤が異なります。閉経前は、卵巣から分泌されるエストロゲンを抑制する「LH-RHアゴニスト製剤」を使用します。一方、閉経後は卵巣からのエストロゲンの分泌は停止し、副腎皮質から分泌される男性ホルモンの働きがエストロゲンに変換されるので、「アロマターゼ阻害薬」を用いてエストロゲンを作らないようにします。閉経の有無に関係なく使用できるものとして、エストロゲンの作用をブロックする「抗エストロゲン薬」があります。
乳がんに対する放射線治療は、乳房温存術後の放射線治療、乳房切除後の放射線治療、再発部位(局所、骨、脳など)への放射線治療などに分類されます。
当院では治療の質の向上のため、最新の治療機械を導入しております。これにより、腫瘍に対してピンポイントに高線量の放射線を照射し、従来の放射線治療よりも照射時間が短く、正常組織への副作用も少ない定位放射線治療が可能です。
現在では、半数以上の患者さまで乳房を温存する手術を受けることが可能ですが、温存手術だけでは、将来的に局所再発が20-30%程度に生じると言われています。そこで、温存手術後に放射線治療を行うことにより、局所再発を2-3%程度に抑えることができ、乳房をすべて切除した場合とほぼ同じ効果を得ることが可能です。この事実は世界中の多くの臨床試験で証明されており、我が国においても乳房温存手術後に放射線治療を受けることが推奨されております。
両腕または片腕をあげた姿勢で、手術をした側の乳房全体に放射線をあてます。
原則として、月曜日から金曜日までの週5回、合計25回照射します。X線という放射線で、1回2Gy(放射線の単位で、グレイと発音します)、合計50Gyを照射します。もし、切除した乳腺のすぐ近くにがん細胞があった場合には、腫瘍のあった範囲のみに照射部位を小さくし、電子線という放射線で、さらに5回ほど追加します(合計30回、60Gy)。
放射線治療にかかる時間は、治療室に入ってから出るまで、10-15分程度、実際に放射線が出ている時間は1-2分程度で、痛みなどは全くありません。
放射線治療に伴う副作用は、治療中に起こるものと、治療後数カ月から数年後に起こるものに分類されます。
放射線皮膚炎
X線は光の一種なので、日焼けと同じ症状が起こります。治療の後半から、照射部位がやや赤くなったり、ピリピリしたりするようになります。治療終了~2週間頃がピークとなり、その後徐々に回復していき、やがて元通りになります。人によっては、日焼け後のように皮がむけたり、熱を持ったりすることもあります。通常はそのままでかまいませんが、症状が強い場合にはお薬を処方いたしますので遠慮なくお申し出ください。
手術した側の腕のむくみ
放射線はわきの一部にも当たるため、リンパの流れが悪くなって起こります。以前は数%程度に起こると言われていましたが、最近はリンパ節をとる個数が少なくなったため、さらに頻度は少なくなりました。
放射線肺炎
放射線は患側の肺のごく一部に当たります。極めて稀ですが放射線による肺炎が起こることが報告されております。発熱や咳嗽などの呼吸器症状が出た場合には、主治医にご相談ください。
心臓機能の障害
左に照射する方は、放射線が心臓にわずかに当たりますので、心臓に影響をもたらす可能性が極めて稀にあります。
当院では経験豊富な放射線治療専門医師が診療にあたっておりますので、ご不明な点は担当医にお尋ねください。
近年、がん治療が著しく進歩するにつれて、がん患者さまにおける精神科の重要性が高まっています。特に乳がんでは、「がん」という告知が不安や恐怖から睡眠障害や抑うつ症状を引き起こすばかりでなく、手術による乳房の喪失や化学療法による脱毛などから生じるボディイメージの変化が非常に大きな精神的苦痛を引き起こします。ブレストセンターでは精神科がチームの一員として積極的に関わり、乳がん治療のサポートにあたっています。医師や看護師との会話のみで心の整理がつくことがほとんどですが、一時的にお薬を処方することで症状を緩和させる場合もあります。早い段階で「心のケア」をすることが重要ですので、少しでも「不安」を感じる方はご相談ください。
当院では、原則として手術の2日前に入院していただき、医師が手術方法の確認を行い、看護師が入院中の過ごし方等に関して説明を行います。手術前日にはセンチネルリンパ節生検の前処置として、胸にアイソトープと呼ばれる薬剤を投与いたします。
手術翌日からお食事を召し上がっていただき、歩行も可能です。術後2日目頃からは患側上肢のリハビリを開始します。
退院までの期間は手術により異なりますが、乳房温存術の場合は術後4日~6日、乳房切除術は術後6日~8日、乳頭乳輪温存乳房切除術及びエキスパンダー挿入術では約2~3週間を目安とし、退院となります。
入院中に少しでもご不明な点やご不安なことがありましたら、遠慮なく医師または看護師にご相談ください。
乳がんの手術で腋窩リンパ節郭清をすると、リンパ液の流れが悪くなり、傷がつっぱって、腕や肩を動かさないことで、術後の後遺症として肩関節の動きの制限(拘縮)が起こることがあります。これを予防するため、腋窩リンパ節を郭清したときはリハビリテーションを行う必要があります。腋窩リンパ節郭清をしていない場合、基本的にはリハビリの必要はありませんが、傷のつっぱりによって腕が十分に挙がらない場合がありますので、当院では乳がんの手術を受けられたすべての患者さまにリハビリテーションを行っています。
退院後もサポートが必要な場合には、外来でリハビリを継続していただくことも可能です。
当院では専門の訓練を積んだ女性理学療法士が対応いたしますので、不安なことがありましたら、いつでも遠慮なくご相談ください。
当院では地域の診療所、クリニックなどとの連携を積極的に進めています。連携施設で精密検査や治療が必要となった場合には優先的に当センターで診療を受けられるよう配慮しております。
毎月1回、乳がんの自己検診をすることで、乳房の正常な形と触り心地が分かるようになります。自分の乳房の通常の状態を知ることにより、毎月の乳房の変化に気が付きやすくなります。"正常"な状態からの変化を早期に発見することが、乳房の自己検診の基本的な考え方です。
生理がある場合には、乳房の緊張や腫れがほとんどなくなる生理が終了した2‐3日後が自己検診をする最適な時期です。閉経後には、「毎月1日」のように自分の検診する日を決めてください。
鏡の前に立ち注意深く見ます。両側の乳房に乳頭からの分泌、皮膚のしわ、くぼみなどの異常がないかを観察してください。
頭の後ろで手を組み、手を前へ押します。乳房の形と輪郭の変化を観察してください。
次に両手を腰にあて、鏡に向かって少しおじぎをします。このときに肩と肘を前方に押し出します。1、2と同様に形と輪郭の変化を観察してください。
片手を上げた方の乳房とその周囲を、もう一方の手の指の腹を使い、しっかりと注意深く隙間なく触れます。ローションやパウダーを使うと、指が皮膚の上を滑りやすくなります。この検査をお風呂の中で行うと石鹸によって指が皮膚の上をすべりやすくなり、皮膚の下の変化が分かりやすくなります。
皮膚の下に異常なしこりや腫瘤がないか探してください。指先を少しずつずらしながら、1円玉くらいの狭い範囲を重ね合わせながら触れて行きます。指先のずらし方には、上下法、回転法、放射状法があります。いずれか一つの方法を選んで乳房全体を触れてください。
上下法はわきの下から指を少しずつ下にずらしてゆきます。アンダーバストに達したら少し内側にずらして再び下から上に戻ります。これを繰り返して乳房全域を触れます。回転法は乳房外上方から指を小さく回転しながら、ゆっくり乳房の周囲を回ります。徐々に乳頭に向かいます。放射状法は乳頭から外側に向って注意深く指をずらします。外側に達したら少し方向をずらして再び乳頭に戻ります。これを繰り返して乳房全体を調べます。
いずれの方法でも乳房とわきの下の間、特にわきの下そのものには十分な注意を払います。片側の乳房を調べ終わったら反対側に対しても同様に行います。
優しく乳頭を搾ることにより、分泌液が出るかを調べます
ステップ4は寝た状態でも繰り返します。背中をのばし左手を頭の上に上げ、左肩の下には枕かたたんだタオルを置きましょう。この体位により乳房が平たくなり、検査が容易になります。前述した3つの方法のいずれかを用いてください。右の乳房でも繰り返します
しこりや乳頭分泌等の変化に気付いたときは医師に相談してください。