排泄の悩みは他人に相談しにくいものです。ましてや女性の場合、泌尿器科に行くこと自体が躊躇したくなるものです。
人間は生きている限り誰もが毎日排泄しています。その排泄が気持ちよくできることは非常に大切なことです。60歳以上の方の約78%が排尿に関してなんらかの不満をお持ちであると報告されており、どなたでも多かれ少なかれ加齢とともに排尿に関する悩みがでてきます。毎日の排泄を見直してみて、もしいまのあなたの排尿状態が一生続くとしたらいかがでしょうか?北里研究所病院では排泄の問題を抱える女性が気軽に相談できる窓口として女性泌尿器科外来を開設いたしました。医師、看護師、薬剤師など多職種の専門家がチームとなってそれぞれの患者さまにとって最適な治療方法(骨盤底筋トレーニング、薬物治療、外科的治療など)を提供させていただきます。少しでもいまの排泄に不満のある方は、年のせいとあきらめてしまったり、恥ずかしがったりせずにお気軽に受診してください。
咳やクシャミをしたとき、重い荷物を持ち上げたとき、走ったり、ジャンプをしたときなど、お腹に力が加わった際に尿が漏れてしまうのが「腹圧性尿失禁」です。尿が溜まっているときにチョロッと尿がもれるのが特徴です。通常は大量にもれることはありません。これは「骨盤底筋」という尿道を支えている筋肉が傷み、緩んでくるために起こります。加齢や出産を契機に生じることが多く、重い物を持つような仕事や便秘による排便時のいきみ、喘息や花粉症の咳込みやクシャミ、肥満なども骨盤底筋を傷める原因になるといわれています。
骨盤臓器脱は女性特有の病気です。本来、女性の骨盤内は骨盤底筋群(筋肉や靭帯)によって支えられています。骨盤臓器脱とは、出産や加齢(閉経)などの影響で骨盤底筋群の支持力が低下して膀胱、子宮頸部、直腸、膣壁などの骨盤内臓器が下垂して膣口から脱出する病気の総称をいいます。以前は、膀胱瘤、子宮脱、直腸脱などといわれていましたが、ひとつだけの臓器が下垂してくることは少ないため、まとめて「骨盤臓器脱」と呼ぶようになりました。
骨盤臓器脱の頻度に関してわが国におけるデータはありませんが、欧米の研究によれば経腟分娩を経験した女性の約30%に骨盤臓器脱がみられると報告されています。
出産や加齢(閉経)に加え、高度な肥満、慢性の便秘、慢性の咳やクシャミを伴う呼吸器疾患、立ち仕事や力仕事などは骨盤底に強い腹圧がかかってしまうため骨盤臓器脱のリスクになります。また、子宮がんや子宮筋腫に対する手術も骨盤底筋群にダメージを与え、骨盤臓器脱の原因になり得ます。
骨盤臓器脱の症状は一般的に軽度であれば無症状です。脱が進行してくると膣に何かがはさまったような違和感やお風呂場で股にピンポン玉のようなものが触れるといった「下垂感」を感じるようになります。尿漏れや脱を押し戻さないと尿が出にくいといった「排尿に関する症状」、便が出にくい感じや残便感、頻便などの「排便に関する症状」などがみられることもあります。また、下腹部が引っ張られるような感じ、下腹部痛といった症状や、膣壁や子宮がいつも脱出していると、その部位が下着でこすれて出血するなどの症状を伴うこともあります。
過活動膀胱とは「急に我慢ができない強い尿意(尿意切迫感)」を感じることを主な症状とする病気です。正常な膀胱機能は脳からの指令によってコントロールされておりますが、過活動膀胱では膀胱がコントロールを失ったような状態となり、少量の尿がたまっただけでも膀胱が過剰に反応してしまい、我慢できないような強い尿意を急に感じるようになります。そのため「トイレに何回も行く(頻尿)」、「夜中トイレに何度も起きる(夜間頻尿)」、「急に尿がしたくなってトイレまで我慢できずに漏れてしまう(切迫性尿失禁)」といった症状を伴うこともあります。
間質性膀胱炎とは、膀胱に原因不明の炎症が生じて、尿がたまってくると下腹部に痛みを感じたり、排尿回数が異常に増えたりする病気です。中高年の女性に多くみられますが、男性や小児にもみられることがあります。通常の膀胱炎は大腸菌などの細菌によって引き起こされますが、間質性膀胱炎は細菌が原因ではありません。はっきりとした原因は解明されておりませんが、膀胱粘膜の機能障害、免疫学的な異常反応、尿中の毒性物質などが一因になっていると考えられています。冷えや精神的なストレス、刺激物の摂取などによって症状が強くなったり弱くなったりすることが特徴です。
これらは直接生命に影響を与えるような病気ではありませんが、生活の質を著しく低下させます。健康長寿を実現させるためにも、わたしたちは排泄の問題を抱える人たちが気軽に相談できる窓口になりたいと考えております。
年のせいとあきらめたり、恥ずかしがったりせずにまずはお気軽にご相談下さい。