脊椎とはいわゆる背骨を構成する一つひとつの骨のことです。
背骨は、7つの頚椎、12個の胸椎、5つの腰椎、5つの仙椎がひとかたまりとなった仙骨、そして3~5個の尾椎から成ります(図1)。
脊椎と脊椎の間には椎間板という特殊な軟骨が存在し、クッションの役目を果たし、さらに背骨に動きを与えています。脊椎と椎間板が交互に積み重なり、一本の柱となり皆さんがイメージする背骨(医学用語では脊柱と言います)ができあがります(図2)。
そして背骨の大きな特徴は一つひとつの脊椎に空いた穴が積み重なり脊柱管(せきちゅうかん)と呼ばれる長い管を形成し、その中に脊髄、馬尾、神経根などの大切な神経を入れていることです(図3)。
さて、椎間板は体の中でも最も負担のかかる組織ですが、なんと椎間板にはほとんど血行がありません。したがって栄養が届きにくい椎間板は人体の中でも最も早く10歳代後半から老化が始まります。加齢によって椎間板からみずみずしさが失われてクッションとしての機能が果せなくなると、椎間板が潰れてきます。その結果、周囲の関節、靱帯や筋肉に負担がかかり頚や腰の痛みが出やすくなります。進行すると脊椎がずれたり変形したりして脊柱管の中で神経が圧迫され、しびれや麻痺など神経の症状が出るようになります。
また背骨は、化膿菌や結核菌が根付いたり、他の部位のがんが転移しやすい部位としても知られています。頭や体を支える大切な機能を持つ背骨に加齢や病気が生じると痛み、しびれ、時に麻痺が生じ、日常生活にも大きな支障を生じるのです。
頚や腰の痛み、こりが生じ、X線で椎間板に加齢性の変化が明らかなときは「椎間板症」あるは「椎間板障害」と呼ばれます。さらに、椎間板の中央にあるゼリー状の髄核が外側にある線維輪を突き破って飛び出し、神経を圧迫した状態を「椎間板ヘルニア」と呼びます。
頚部では上肢、腰部では下肢に強い痛みやしびれを生じます。特に頚でヘルニアが脊髄を圧迫すると四肢のしびれや麻痺を生じることがあり、多くの場合早めの手術が必要になりますので要注意です。
また、椎間板が傷んでぐらぐらになって(不安定性)ずれた状態を「脊椎すべり症」といい、50歳以降の女性の腰に多く見られます。ずれた骨や軟骨によって神経が圧迫され、足のしびれや痛みのために休み休みしか歩けなくなる(間欠跛行:かんけつはこう)と、手術が必要となることもあります。
椎間板の加齢による変性が進み、骨にも変形が出現し頚や腰に痛みが出た状態を「変形性脊椎症」といいます。60歳以上の男性ではこの変形が進み、骨のズレがないにもかかわらず神経が圧迫されて足の痛みやしびれ、間欠跛行などの症状を出すことがあり、「腰部脊柱管狭窄症」と診断されることが多くなっています。
また、背骨がずれないように固定している靱帯が原因不明で固くなり、最後には骨に変わってしまう病気があります。これは「脊柱靭帯骨化症」といって、特に頚の部分で後縦靭帯が骨化し、脊髄を圧迫すると手足の痛み、しびれ、麻痺が出て手術となることも少なくありません(後縦靭帯骨化症)。
また、背骨は細菌や結核菌が根付いたり、他の部位のがんが転移したりしやすいことでも知られています。この場合、早期に手術をしないと、強い痛みや麻痺で寝たきりになることもあります。がんの既往がある方や副腎皮質ホルモン、抗がん剤、免疫抑制剤などの投与を受けている方で、頚や腰、背中の痛みや手足のしびれが1カ月以上続いたり、徐々に悪化している場合、早めに脊椎センターにご相談ください。
また、高いところから落ちたり、交通事故で背骨に大きな衝撃が加わると脊椎の脱臼や骨折が生じ、神経が損傷され手足が動かなくなること(脊髄損傷)もあり、早期に専門的な治療が必要です。
急性で強い頚や腰の痛みは「寝違い」や「ぎっくり腰」といわれ、時に動けなくなるほど強い症状が出ることもあります。このようなときは無理に慌てて病院にかかろうとせず、楽な姿勢で安静にしていると通常は2~3日で、ある程度動ける程度に良くなります。この時点で外来にかかっても遅くありません。ただし、頚や腰の痛みと同時に、以下のような症状がある場合は、重大な病気が隠れている可能性がありますので、早めに脊椎外来を受診してください。