患者さまから採取された組織や細胞を直接検査して診断を行う病理診断は最終診断または確定診断ともいわれ、治療方針を決める際に大きな役割を果たしています。当科は2名以上の病理医による全症例ダブルチェックでより確実な診断を行います。
病理診断科は、臨床医からの依頼で、患者さまの体から採取された組織や細胞に病理診断を行います。診断の依頼は院内すべての診療科から届きます。
病理診断には、主に組織診、細胞診、剖検があります。組織診は生検と手術材料に分けられます。生検は、内視鏡検査などで採取された組織の一部が良性か悪性かを最終診断して、その後の治療方針を決定します。手術材料とは手術で摘出された臓器や組織のことで、手術材料を検査することでどのような腫瘍か、がんの悪性度はどうか、病変が取り切れたか、追加手術が必要かなどを診断し、その後の治療に還元します。
細胞診は、痰や尿などの分泌物や子宮頸部からこすりとった細胞などを検査してスクリーニングの役割を果たします。
剖検は病理解剖ともいい、亡くなられた患者さまで、なおかつ許可をいただいた方に対して行います。剖検は組織診、細胞診と異なり、全身の病態を把握することができます。
組織診のために採取された検体は、臨床医が書いた病歴・治療歴の概要であるサマリーとともに病理診断科に届きます。病理診断科ではまずサマリーを確認して、臨床検査技師が検体から標本を作ります。病理医は標本を顕微鏡で見て診断を下し、電子カルテに文章で打ち込みます。(図参照)
病理医と臨床医の診断に齟齬のある症例も50件に1件くらいあり、その場合、臨床医とディスカッションを行います。齟齬といっても、まったく違うというものは少なく、たとえば病理医が良性悪性の振り分けができないと診断した症例について、良性悪性どちらよりなのか、もう一度生検をするのか、治療を始めるのか、あるいは3か月後にフォローアップするのかなどを決めていきます。
当科には臨床検査技師が4人おり、全員が、がん細胞検査のスペシャリストである細胞検査士でもあります。細胞診では、多くの症例について複数の細胞検査士がダブルチェックで判定を行い、その後、病理医が診断を行います。
細胞診は組織診とは異なり、ある程度の確率で誤った判定が出るものです。そのため細胞診の結果は最終診断になりにくく、臨床医が細胞診の結果を他のデータと合わせて総合的に判断します。
日本の細胞検査士はとても優秀だと言われています。その理由に養成カリキュラムがしっかりしていること、細胞検査士試験の合格率が50%と
非常に厳しいことなどが挙げられます。細胞検査士でもある臨床検査技師のおかげで、病理医は仕事ができるのです。
病理医は全国で2600人しかおらず、200床以上の病院でも常勤1人あるいは非常勤のみの場合が多く、たいへん不足しています。
将来、病理診断はAIが行い病理医は不要になるという話もあるようですが、これは誤りです。AIは未経験の標本は診断ができませんし、良性悪性の振り分けができないという診断もできません。病理診断は二者択一ではない応用問題であり、AIに任せられないのです。
AIに病理診断を任せることはできませんが、たとえば同じ症例を病理医とダブルチェックする方法は有効ですし、特定のがんの判定や遺伝子変異の治療での活用など研究が進められています。不足している病理医のサポート役として、将来的にさまざまな活用が期待できると思います。
病理でのAIの活用には、プレパラート標本をデジタル化するデジタルパソロジーの導入が不可欠ですが、日本は残念ながら予算がつかず諸外国に後れをとっているのが現状です。
当科の常勤病理医は私1人ですが、非常勤で他の病院の部長クラスの病理医の先生方が来てくださって、全例をダブルチェックしています。
病理診断は、経験を積んだ病理医であれば9割くらいはすぐに診断できますが、1割くらいは非常勤の先生とコンサルテーションをしたり、その1割のうちのさらに1割は外部の病理医の先生にコンサルテーションに出したりして診断をしています。病理診断科は最終診断を行うことを主にする唯一の科であり、100%の診断を求められる科でもあります。そのため、診断の難しい症例は、その分野を得意とする病理医にコンサルテーションを依頼することが一般的ですし、とても重要です。
病理医は常に100%の診断を目指していますが、患者さまが納得して治療を受けるためにも、診断について少しでも不安に思うことがあれば、是非、セカンドオピニオンを受けてください。セカンドオピニオンを嫌がる医師はいませんので、安心して主治医にご相談ください。
当科ではセカンドオピニオン外来も行っておりますので、是非ご利用ください。
前田 一郎(まえだ いちろう)
病理診断科 部長
1996年聖マリアンナ医科大学卒業。2002年聖マリアンナ医科大学大学院医学研究科卒業。聖マリアンナ医科大学診断病理学助教。2006年より癌研究会癌研究所乳腺病理部へ国内留学。2007年聖マリアンナ医科大学診断病理学復職、2009年同講師。2015年聖マリアンナ医科大学付属病院病理診断科副部長。2017年聖マリアンナ医科大学病理学准教授。2019年より北里大学医学部病理学教授、北里大学北里研究所病院病理診断科部長。
医学博士、日本病理学会病理専門医、日本臨床細胞学会専門医、日本メディカルAI学会公認資格。