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2024年4月1日より手外科・上肢外科センターを開設いたしました。
上肢(手〜肩)は、社会的活動を行ううえで非常に重要な部位ですが、上肢の専門外来はまだまだ少ないのが現状です。
当センターでは専門性の高い医療を患者さまが受診しやすい形で提供してまいります。

地域の皆さまによりよい医療を

整形外科は近年細分化が著しく、専門性の高い診療が求められています。なかでも上肢は極めて繊細で複雑な構造をしているため治療が難しい部位であり、機能回復には総合的な診断と治療、リハビリテーションが必要となります。当センターで扱う疾患は、骨折や靱帯・腱・神経損傷などの外傷、腱鞘炎、変形性関節症、関節リウマチ、絞扼性神経障害などの慢性疾患まで多岐にわたります。
上肢の症状で受診された場合でも、頸椎や内科的疾患が原因ということもあります。初診では、まず問診を行い、身体所見をとってから必要な検査を経て、症状の原因をしっかりと特定します。
その後、患者さま一人ひとりの生活背景や活動性なども踏まえた治療計画を立てていきます。当センターの開設により、地域の皆さまが上肢に不調を感じた時には気軽に専門性の高い診療を受けていただけるようになりました。

手術風景

負担の少ない保存療法を優先

当センターは、投薬や注射など、患者さまに負担が少なくリスクの低い保存治療を優先的に行っています。神経障害や腱鞘炎のように安静にすることで症状が改善する疾患もあります。近年、痛み止めの種類も非常に増えており、副作用の少ない薬もありますので、病態や年齢的な背景や基礎疾患に応じて使い分けています。
保存治療を一定期間続けても、患者さまが期待するような痛みの改善や機能の回復が得られない場合は、利点欠点を正しく適切に説明したうえで手術をお勧めしています。
外傷で骨が大きくずれている場合などは、最初の診察で手術治療をお勧めします。神経断裂が起きた場合なども自然につながることはないので手術が必要になります。手指の神経断裂は、割れたコップの破片で指を切るというようなささいなことでも起きますが、指神経が断裂すると末端の感覚が欠落してしまいます。手は重要な感覚器官でもあるため、感覚がないと日常生活を送るうえでいろいろと支障がでてきます。

手術の進歩と後療法の重要性

近年は上肢においても内視鏡手術が増えています。内視鏡手術は傷が小さいことが大きな利点です。また、小さい切開で目的部位までの視野を得ることができるため、皮ふだけではなくその下の筋肉や組織の損傷も少なく痛みも少なくて済みます。そのため早期社会復帰、早期スポーツ復帰も可能になります。
また、手術に用いる材料自体も非常に進歩しています。たとえば骨折した部位を固定するネジやプレートなどもより薄くより強度が高くなり、さらには形状も工夫されて患者さまの身体に害の少ないものになってきています。人工靱帯や人工骨の製品化は、患者さま自身の健康な別の部位から組織をとる必要がなくなり、より短時間での手術を可能にしました。
一方、上肢(特に手)は感覚が非常に過敏なため、手術だけで100%回復することは難しいです。術後も引き続き外来診療やリハビリテーションといった後療法が必要です。術後の痛みも強いので、手術に際しては事前に後療法についても患者さまにしっかり説明して理解していただいています。

副作用のリスクが低い再生医療

当院では自由診療の再生医療も実施しています。再生医療とは、患者さま自身の血液を採取して特殊な加工をし、注射で患部に戻す治療方法です。テニス肘、ゴルフ肘、へバーデン結節、母指CM関節症などの痛みや炎症による腫れなどの症状に効果があります。また、人体に対するリスクが低く、繰り返し受けても副作用がないことも大きな利点です。注目の治療法でもあるため再生医療を希望して来院される患者さまも多くいらっしゃいます。全ての患者さまに効果が得られるわけではありませんが、検討されたい方はお気軽にご相談ください。

早期受診が早期治癒につながる

日本人は我慢強く、症状がかなり悪化してから来院される方が多くいらっしゃいます。病院に行くと手術を勧められるのではないか、通い続けることになるのではないかなど、ネガティブな印象をもつ方もいらっしゃいますが、そういったことはありません。症状が軽いうちに治療を始めれば早く治りますし、手術をせずに済んだり、手術をする場合もより負担の軽い手術で済むことが多いです。
上肢は社会生活を送るうえでとても重要な器官です。気になる症状がある時は迷わず早めに受診して、専門医による正しい診断と適切な治療を受けていただければと思います。

手術風景

プロフィール

木村 洋朗(きむら ひろお)

木村 洋朗(きむら ひろお)
2009年慶應義塾大学医学部卒業。
2011年慶應義塾大学整形外科に入局し、関連病院に勤務。
2019年より慶應義塾大学整形外科手外科スタッフ。
2023年4月に当院整形外科医長に着任。
2024年4月より手外科・上肢外科センター長に着任し現在に至る。
日本整形外科学会専門医・指導医、日本手外科学会認定手外科専門医・代議員、日本整形外科学会認定リウマチ医、日本整形外科学会認定スポーツ医、日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医、医学博士、慶應義塾大学整形外科非常勤講師。