日本初のWHO伝統医学協力センターの指定を受けた当センターは患者さまによりよい治療を提供すべく守るべき伝統を守りつつオンライン診療なども積極的に取り入れています。
漢方医学は、5〜6世紀頃、仏教と共に渡来した中国医学を元に独自の進化をとげた日本の伝統医学です。1500年の歴史があり、中国にはない独自の処方が多数あります。漢方医学という名称は、江戸時代に広まった蘭方医学と区別するために用いられるようになりました。
2019年よりWHOの国際疾病分類(ICD11)に、伝統医学の章として掲載されており、私もその翻訳に携わっています。
当センターの旧称は東洋医学総合研究所といって、1972年に設立されました。初代所長の大塚敬節と2代目所長の矢数道明は、漢方専門医・指導医の認定を行う日本東洋医学会設立の中心人物です。当センターは半世紀にわたり医師・鍼灸師が連携して治療、研究を行ってきた歴史があり、1986年には日本初のWHO伝統医学協力センターの指定を受けています。日本東洋医学会の指導医数が国内で最も多く、全国から多くの患者さまに受診いただいています。
コロナ禍に、何種類かの漢方薬が品切れ状態であるというニュースを目にされた方も多いと思います。新型コロナウイルス感染症の治療には漢方が多く用いられました。
新型コロナウイルスは短期間で変異するため、治療薬の開発が難しく、変異によって効果が出にくいという事態も起きました。一方、漢方薬には多数の薬効成分が含まれるため、遺伝子変異が起きても比較的効果が保たれるということが、台湾などの研究で明らかにされています。
国内では日本東洋医学会主導で東北大学が中心となって急性期の漢方治療について研究を行い、葛根湯(かっこんとう)と小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)の組み合わせが発熱緩和や重症化抑制に効果があることが確認できました。この組み合わせは、約100年前に世界的なパンデミックを引き起こした新型インフルエンザ「スペインかぜ」で効果があったとされる処方です。
漢方医学は、天然の生薬(しょうやく)の組み合わせや量のバランスにより薬効の異なる処方が伝承され役立てられてきた医学です。心と体は互いに影響し合うひとつのものであるという「心身一如」(しんしんいちにょ)との考えに基づいています。
診察は五感を用いた腹診(おなかを触る)、脈診(脈を診る)、舌診(舌を診る)と、患者さまとの問診を組み合わせて行います。
当センターは、煎じ薬中心の自由診療を行っています。漢方薬にはエキス剤という個包装された粉薬もありますが、煎じ薬には既製品で再現できない処方が多く、また保険診療は生薬の品目数や薬価が決められているため処方が限られてしまいます。当センターの処方集には322の処方があり、さらに患者さまの状態にあわせて加減といって生薬を追加したり減らしたり除いたりすることで無限の処方が可能になります。この無限の処方が漢方医学本来の薬であり、その力を発揮したよりよい治療を患者さまに提供することが当センターのこだわりです。
新型コロナウイルス感染症は回復後も長期間、後遺症に悩まされる方も少なくありません。当センターのコロナ後遺症外来では、患者さまの全身のバランスを整えるための漢方薬を処方することで、後遺症の回復促進が期待できます。
何となく体調がすぐれないが、原因がわからないという方には漢方ドックがお勧めです。西洋医学の視点で異常はないが、漢方医学では問題があり治療が可能という場合もあります。たとえば、仕事でパソコンを長時間使うことで目が疲れて肩こりが悪化して、左右の肋骨の下が張る所見を漢方医学では胸脇苦満(きょうきょうくまん)といいます。様々なストレスでも見られますが、西洋医学では対応が難しい病態です。漢方医学では胸脇苦満には柴胡を含む柴胡剤という伝統的な処方があり、服用することで症状は改善します。小柴胡湯は風邪の治り際に処方する漢方薬ですが、リンパ節が腫れる首から上下のライン(目、肩、脇)に生じる病態には、小柴胡湯が有用なことがあります。
当センターは自由診療ということもあり、西洋医学でなかなか治らないような難しい症例の患者さまも多く受診されます。もちろんすべての病気に対して有効ということではありませんが、漢方医学を治療に取り入れることにより患者さまのニーズにお応えできることが多いと思います。
受診を希望される方は、電話またはメールでご予約ください。
通院せずに治療が受けられるオンライン診療もあります。(初診も可)
当センターでの受診を希望される方のために、薬剤師が対応する無料のオンライン医療相談もあります。
詳細はホームページをご確認ください。
※当センターの受診に紹介状は必要ありません
TEL:03(5791)6169
HP:https://www.kitasato-u.ac.jp/toui-ken
星野 卓之(ほしの たかゆき)
漢方鍼灸治療センター センター長
1996年自治医科大学卒業。千葉県内の国保病院で消化器内科医として勤務後、2005年北里大学大学院医療系研究科(東洋医学)。2009年医学博士、東洋医学総合研究所(東医研)漢方診療部。2023年東医研所長、4月より北里研究所病院漢方鍼灸治療センター長。
日本東洋医学会理事・専門医・指導医、日本医史学会代議員、東亜医学協会理事・副編集長、日本内科学会認定総合内科専門医、日本消化器病学会認定消化器病専門医、診療情報管理士。