数十年前には不治の病とされていた「がん」。
現在は早期に発見できれば治る時代になりました。また新薬の登場でがんの進行を抑えられる期間も長くなり、がんと共存していく時代になったともいえます。
北里研究所病院では、がんになったとしても生活の質(QOL)を上げ、患者さまのライフステージに応じた治療に力を入れています。
腫瘍センターは、がんの化学療法(薬物療法)を外来で行っている部門です。抗がん剤をメインに、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などを使用してがんの治療をしています。抗がん剤の専門知識を持ったスタッフがケアにあたっていますので、安心して治療を受けていただけます。
最近のがん化学療法では、入院して持続的に投与をしなければならないような薬がだいぶ少なくなり、1回の治療が数時間で終わるような薬が大半なので、外来での化学療法が主流になってきました。当院でも8割くらいの患者さまが、外来で治療を受けています。半日の休暇などを活用して、職場から通われている方もいらっしゃいます。
がん治療自体も「手術してがんを切除」だけではなく、総合的にさまざまな方法(化学療法や放射線療法など)を使って治療していこうというスタンスに変わりつつあるので、外科、放射線科など関係する診療科と連携を密にし、治療に取り組んでいます。
また、腫瘍センターでは外来化学療法だけではなく、患者さまの生活の質を上げる取り組みをいくつか行っています。
がん患者さまのリハビリは、少し前から注目されていました。術前術後のリハビリはもとより、最近では化学療法や放射線療法の際にもリハビリを取り入れた方が筋力の衰えを抑えられたり、だるさ(倦怠感)や抑うつ・不安などが改善される傾向にあります。また、すべての治療を終えた末期がんの方にも効果があるとされていますので、ただ安静にしているのではなく、できる範囲でリハビリを行うのが重要かと思います。
整形外科と連携し、入院されている方だけではなく外来の患者さまにもリハビリを受けていただけるよう現在環境を整えているところです。
腫瘍センターでは、がんの治療を受けている方に対して相談窓口を開設しています。
がんと診断されるとそれだけで不安になり、治療や療養生活の心配などさまざまな悩みが出てくることと思います。そういった悩みや心配事についての相談を面談や電話で対応しています。ご本人だけではなく、そのご家族のほか、地域の方々どなたでもご利用いただくことができますので、お気軽にご相談ください。がん専門看護師、看護師、ソーシャルワーカー、薬剤師、管理栄養士などが相談内容に応じてお伺いします。
がん相談窓口
抗がん剤の副作用の一つに「脱毛」があります。
見た目にも関わりますので患者さまにとっては大きな負担になります。国内で導入している施設はまだ多くありませんが、腫瘍センターでは、頭皮の脱毛を予防する機械を今年導入予定です。
頭皮に抗がん剤が行き届くと脱毛が起きるため、治療の際に頭皮を冷却して抗がん剤を頭皮に届かないようにします。ヨーロッパなどでは既に導入され、この冷却システムにより約半数の方にあまり脱毛が見られなかったというデータが報告されています。日本の試験では、大体4分の1程の方に効果が見られましたが、その他の方も、ひどい脱毛ではなかったり、脱毛しても回復するまでの時間が短かったとの報告もされています。
これにより、脱毛を気にして抗がん剤治療に積極的になれなかった方や、副作用の脱毛で悩まれていた方の気持ちが軽くなり、前を向いて治療に臨んでもらえるようになればと思います。
冒頭にも書きましたが、今はがんと共に生きていく時代になりました。ですからただ治療をするだけではなく、患者さまの生活の質を上げていけるようなサポートが今後必要だと感じています。治療の内容に関しては、各病院で特別なことをしているのではなく、日本で定められたガイドラインに従っており、治療が同じであれば、遠方にある中核のがんセンターに無理をして通うのではなく、自宅や職場に近い生活圏内で治療ができればよいのではないでしょうか。そんな環境づくりをこれからも進めていきたいと考えます。
西村 賢 (にしむら けん)
腫瘍センター長、医学博士
1998年 北里大学医学部卒業後、同大学内科研修を経て同大学消化器内科学教室に入局。2006年4月より神奈川県立がんセンター消化器内科にて消化管癌の臨床試験、治験などを多く経験し2019年4月より北里大学北里研究所病院所腫瘍センター長に就任。当院では消化管早期癌のESDを含めた内視鏡治療、切除不能消化器癌の化学療法を専門に行なっている。産業医、日本内科学会認定総合内科専門医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、日本消化器病学会専門医、がん治療認定医、日本食道学会認定医