日本人の約4割が頭痛もち
頭痛は多くの方がこれまでに一度は経験したことがある身体の不調です。原因は様々ですが、慢性頭痛(いわゆる頭痛持ち)の方は、日本におよそ3000万人存在するといわれています。特に30代から50代の働き盛りに多く、多忙なため、市販の鎮痛薬などで痛みを紛らわせ、約7割の方は病院受診の経験がないというのが現状です。
頭痛の診断と種類
頭痛は大きく分けて一次性頭痛と二次性頭痛に分けられます。頭痛の診察の最初のステップは、二次性頭痛を鑑別することです。二次性頭痛とは何らかの疾患の症状として生じている頭痛です。今までに感じたことのない頭痛や、徐々に悪化する頭痛、吐き気や嘔吐、手足の動きづらさを伴う頭痛、発熱を伴う頭痛など、頭痛以外の症状を伴う場合は、脳出血やくも膜下出血、髄膜脳炎など生命にかかわる頭痛の可能性もある ため、早急に病院を受診してください。
二次性頭痛が否定的とされれば、一次性頭痛の鑑別診断を行います。一次性頭痛は、片頭痛や緊張型頭痛、群発頭痛といった「頭痛持ちの頭痛」です。一次性頭痛は命にかかわる頭痛ではありません。しかし、学校や仕事に行かれない、行っても効率が上がらないとか、頭痛で寝込んでしまって家事が十分こなせないなど生活の支障が大きければ、病院を受診し、しっかりと治療する必要があります。
繰り返す頭痛に対して、漫然と市販の鎮痛薬で対処していると、鎮痛薬を飲みすぎてしまい、「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)」という新たな頭痛を併発してしまうことがあるからです。例えば、片頭痛に加えて薬剤の使用過多の頭痛を併発するとほぼ毎日のように頭痛に悩まされるようになってしまいます。自己流の治療によって頭痛をこじらせてしまうわけです。ですから、その前に頭痛外来を受診して相談していただきたいです。
一次性頭痛の特徴
片頭痛:ズキンズキンと脈打つ痛みが特徴で、吐き気や嘔吐を伴い、光や音に対して敏感になり、重度の場合は動けず寝込むこともありますが、1回の頭痛が3日以上持続することはありません。女性に多く、月経時に重度化しやすい傾向があります。
緊張型頭痛:頭全体を締め付けられるような痛みが特徴です。耐えられる範囲の痛みで何とか活動可能です。ストレスや運動不足など様々な要因が複合して生じます。一般的な鎮痛薬が有効です。
群発頭痛:片目の奥に激烈な痛みが生じ、15分~3時間以内に治まりますが、1~2か月間は、ほぼ連日頭痛が生じます。涙、鼻汁があり、痛みのためにじっとしていられません。圧倒的に男性に 多く、群発期は1~2年に1回ですが、この時期はアルコールによって頭痛が誘発されるので、飲酒は禁忌となります。
一次性頭痛の治療
一般的な鎮痛薬は、重度の片頭痛の痛みに対して、無効なことが少なくありません。また群発頭痛にはほぼ無効です。片頭痛、群発頭痛に対しては、病院で処方されるトリプタン製剤が極めて有効です。緊張型頭痛にはトリプタン製剤は効果がなく、一般鎮痛薬で対応します。また頻度が月10日以上と多い場合は予防薬による予防療法を検討します。予防薬は毎日服薬する内服薬が基本ですが、最新治療として月1回皮下注射する抗CGRP抗体薬が開発されています。現在、当院でも臨床治験を行っておりますので、ご興味のある方は頭痛外来にてご相談ください。
頭痛を記録する
痛みは目に見えず、過ぎてしまえば忘れてしまいます。1回1回の頭痛も同じではなく、重いとき、軽いときと様々です。そのため、頭痛を記録することはとても重要です。
「敵を知って己を知る」
頭痛に飲み込まれてしまわないように、頭痛を記録することで、自分の頭痛のパターンを知って、自分の行動パターンを変える、環境の工夫をするなど対策が見えてくるのです。また、片頭痛と緊張型頭痛2種類の頭痛を持っていることが明らかになることもあります。その場合は、片頭痛にはトリプタン、緊張型頭痛には一般的な鎮痛薬というふうに、頭痛のタイプによって、薬の飲みわけがしやすくなります。
生活に支障がある場合は受診を
頭痛外来では、頭痛に苦しむ日数・頭痛に苦しむ時間を短縮し、頭痛による生活支障を減らすことを目標に患者さまとともに治療を行います。頭痛頻度は多くないけれど、1回の頭痛が激烈であるとか、月10日以上頭痛があるという場合は、頭痛外来を受診してください。受診前に日本頭痛学会のホームページからダウンロード可能な「頭痛ダイアリー」や当院ホームページにある「頭痛ClickR」で頭痛を記録しておくと、診察がよりスムースです。
◎当院では、毎週金曜午前、第3土曜日午前に頭痛外来を行っています。受診に際しては診療情報提供書(紹介状)をお持ちください。紹介状がなくても受診可能ですが、診療費とは別に選定療養費として5000円(税抜)をご負担いただきます。
頭痛記録アプリ「頭痛ClickR」
北里研究所病院および北里大学薬学部と株式会社ジェイマックシステムが共同開発した頭痛記録アプリです。頭痛の記録、服薬の記録とともに、月経期間、睡眠時間などを入力することができます。また、医師コードを登録することで医師との情報共有が可能です。現在多くの頭痛外来で導入されています。当院ホームページからもダウンロード可能です。
URL:https://intro-headache.vitalnote.jp/ZutsuClick/
飯ヶ谷 美峰(いいがや みほ)
神経内科部長
1993年 北里大学医学部 卒業後、北里大学病院、北里東病院などの勤務を経て、2013年より北里研究所病院に。
2015年 北里大学北里研究所病院 総合内科部長、頭痛センター長、2016年 同 神経内科部長に就任。北里大学医学部神経内科 講師。
日本内科学会(認定内科医)、日本神経学会(神経内科専門医・代議員)、日本脳卒中学会(専門医)、日本頭痛学会(認定専門医・評議員)など