炎症性腸疾患(IBD)治療の進歩は目覚ましく、病気と共存しつつこれまでと変わらない生活を送ることが可能です。
当センターは患者さまのQOLをより高めるためにチーム医療で最先端の治療に取り組んでいます。
炎症性腸疾患(IBD)は、潰瘍性大腸炎とクローン病の2つの疾患を指す国の指定難病であり、近年患者数が急増しています。2つの疾患に共通する主な症状は繰り返し続く下痢や血便、腹痛で、炎症の部位や強さによってさまざまな症状が出ることがあります。
近年の研究によってIBDは体質的に素因のある人に環境要因が加わることで免疫異常が起き、腸が攻撃されて炎症が起きることがわかっています。今の段階では原因が明らかではなく、根本治療が存在しないため、治癒を目指すことは現実的ではありません。IBDは10代〜30代の比較的若い人に発症することが多く、進学、就職、結婚、妊娠、出産、子育てという人生の大切な場面を持病を抱えたまま迎えることになるため、社会への影響が大きいことから注目されている疾患でもあります。
患者さまの急増に対し専門医の数はまだまだ不足しています。そのなかで、当センターは日本でも有数のIBDの専門施設のひとつであり、IBD治療の先進医療を提供しています。
IBDは社会的に影響の大きい疾患であることから、この10年前後の間に多くの有効な治療薬が開発され、発症からの経過が劇的に改善しました。新たな治療薬も多数開発されており、選択肢が増えることで、治療はますます複雑になっています。IBDの専門医は、どの薬がどのような状態の患者さまに適切なのかという情報を常にアップデートすることが重要です。医学の進歩を日々の治療にしっかり反映することで、患者さまに最適な治療を受けていただくことができるのです。
潰瘍性大腸炎は半数以上の方が軽症で、薬物治療を有効に行うことで多くは手術を避けられます。クローン病は、腸の部分的な切除が必要な方もいますが、切除後に薬物治療を行うことで手術を繰り返さずに済む方が多くなりました。当院は、より体に負担が少なく傷跡の目立たない低侵襲の腹腔鏡手術を行っています。
症状が落ち着けば受診の間隔も2か月から3か月に1度くらいで済む方が大半で、治療を続けるうえで経済的、身体的、時間的にも負担が少なくて済みます。
検査方法も日々進歩しています。一般にイメージされる内視鏡だけではなく、血液や便の炎症物質を測ったり、カプセル内視鏡や腸管エコーなどを組み合わせることで、精度は高く負担が少ない検査を受けていただけるように工夫しています。体に負担がほとんどない超音波を用いる腸管エコーは当院が日本で先駆けて導入しました。
当センターでは、患者さまにIBD発症前よりもより高いQOL(生活の質)を達成していただきたいと願っています。そのため医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、検査技師、事務スタッフなどでカンファレンスを実施し、チームとしてサポートを行っています。
医師には相談しにくいような治療や日常生活における悩みなどは、看護師にご相談いただけます。当センターではメールでのご相談も行っておりますので、次の受診まで待つことなく、いつでもお気軽にご相談いただくことができます。
IBDもかつては厳しい食事制限が必要な場合も少なくなかったのですが、現在は最低限で済むようになりました。昨今の管理栄養士による栄養指導は、不必要または不正確な食事制限をやめて、通常の生活を無理なく送っていただくために受けていただくことが多くなりました。
治療を長期間継続するためには、個々の事情にあわせた治療方法が大切です。治療薬は、飲み薬から自己注射、点滴までさまざまな選択肢があります。患者さまのご希望や事情にあわせて、お薬の有効性だけではなく利便性にも配慮して、医師だけではなく薬剤師も一緒になって対話をしながら選んでいきます。
IBDは指定難病ですので、医療費助成を申請できます。当院の事務スタッフが申請のお手伝いも行います。IBDの新薬は高額で月10万円を超えるような治療薬もありますが、自己負担限度額は所得によって決まっていますので、医療費をあまり気にすることなくより適切な治療薬を選択することが可能です。
IBDの治療診断は、ともに劇的に進歩しています。病気の診断を受ければショックを受けるのは当然ですが、病気と共存しつつ前向きでハッピーな本来の生活を取り戻すことが可能な時代になっています。われわれにそのお手伝いができればうれしく思いますので、是非お声がけいただければと思います。
当センターでは患者さまの治療方針の決定と情報共有のため、毎週カンファレンスを行っています。
小林 拓(こばやし たく)
1998年名古屋大学医学部卒業。関連病院で研修の後、2004年より慶應義塾大学消化器内科特別研究員として炎症性腸疾患の研究に従事、2008年医学博士。2009年ノースカロライナ大学博士研究員、2012年北里研究所病院消化器内科医長を経て炎症性腸疾患先進治療センター副センター長、2022年より現職。
日本消化器病学会(専門医・指導医・学会評議員・ガイドライン委員)、日本消化器内視鏡学会(専門医・指導医・学術評議員)などに所属。日本炎症性腸疾患学会では国際交流委員会、機関誌編集委員会で委員長を歴任。