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当科では、乳腺専門医を中心に専門性の高い看護師や薬剤師などのコメディカルとチーム一丸となり治療に取り組んでいます。4月から甲状腺がんの手術を始めましたので、甲状腺疾患治療の充実も図っていきます。

乳がん

乳がん検診はかならず受けましょう

 乳がん検診で見つかるがんはゆっくり進行するおとなしいがんのため、2年に一度検診を受けていれば見つけることができます。なかには進行の早い乳がんもあり検診では見つかりにくいものもあります。そのようながんはHER2がんやトリプルネガティブと呼ばれ悪性度は高くなりますが、一部は薬が良く効くために治りやすい側面もあります。
 いずれにせよ、なるべく初期の段階でがんが見つけられれば小さな手術で済むことが多く、100%とは言えませんが治ります。現在日本の乳がん検診の受診率は40%程になりました。欧米では50~70%という高い受診率ですので、皆さまにもさらに乳がんに関心をもっていただき、定期的に乳がん検診を受診していただきたいです。

乳がんタイプ別の治療から個別化の治療へ

 近年、乳がんの治療は、乳がんの性質によって5つのサブタイプに分け、それぞれのタイプに合わせた治療が定着してきました。具体的には、乳がん細胞のホルモン受容体とHER2遺伝子が陽性か陰性か、Ki67というがん細胞の増殖スピードが早いか遅いかで分類します。ホルモン受容体が陽性ならばホルモン治療を主体に、HER2が陽性タイプなら化学療法(抗がん剤)と分子標的薬で、すべてが陰性のトリプルネガティブは化学療法しか効かない、などそれぞれ の乳がんの性質にあった治療を行います。
 以前は、予後が改善するが副作用の強い抗がん剤を使用した化学療法が行われてきました。しかし、2010年以降はサブタイプ別の治療が定着し、一番強い抗がん剤を使用するヘビーな化学療法と同等の効果が期待できるならば、タイプに合わせてホルモン療法や分子標的薬を使用して、なるべく副作用を少なくするという流れになってきました。
 がんの性質にあわせて個別の治療をしていく、これが今後は患者さまの性質にあわせた個別治療が行われるようになってくると思います。現在もすでに一部では広まりつつあります。ハリウッド女優が予防的に乳房を切除したことがニュースになった遺伝性乳がんに対する治療もその一つです。今年から遺伝性の乳がん再発に使える新薬も承認されました。今後も特定の遺伝子変異を持った患者さまにピンポイントで効く薬が増えていくことでしょう。

患者さまの環境、状況にあわせた治療を

 今は、ひとつの治療に対して成績が良いとか良くないといったものが全てデータとして出ています。このようなエビデンス(科学的な根拠)を患者さまと共有して、一緒に治療方針を決めていくことを〈Shared decision making〉といいます。医師が一方的に治療方法を決めるのではなく、患者さまの個々の思考やライフスタイルに合わせ、治療方法を決めていく時代になりました。
 特に乳がんは治療の選択肢が多いため、当科でも医師、専門看護師ほか治療に関わるすべての医療者がチーム情報を共有し、患者さまが満足する治療を目指し日々活動しています。

乳腺・甲状腺外科チームのメンバーです

乳腺・甲状腺外科チームのメンバーです

甲状腺がん

甲状腺がんは予後の良いがん

 読者の皆さまにとって、甲状腺がんはあまりなじみのない疾患かと思います。どちらかというと女性に多いがんですが、乳がんと比べると患者数は少なく、だいたい8分の1くらいです。甲状腺がんのほとんどを占める分化がんは、悪性度が低く10年生存率が90%以上と、全がんのなかでもトップクラスで予後の良いがんです。
 手術は首のしわを利用して切開して行います。だいたい4~5㎝弱の切開で安全にがんを切除できます。傷は1年くらいでほとんど目立たなくなります。最近ではさらに傷が小さく低侵襲な鏡視下手術も大きな施設では行われています。当科でも今後導入を予定しています。
 また、1㎝以下の分化がんを微小がんというのですが、この微小がんの多くは、がんが成長せずに命に関わらないことが分かってきました。したがって、条件が合えば、アクティブサーベイランスといって、手術はせずに経過観察をすることがあります。定期的に病院での検査は必要になりますが、がんが大きくならなければそのままにします。以前は、5㎜以下のがんでも手術をしていましたが、患者さまに経過観察という選択肢があることもお伝えしています。

首の腫れを感じたら一度病院へ

 甲状腺がんの検診はなく、人間ドックのオプションで超音波検査などを受けると、がんの早期発見につながります。誰しもが必ず受けないといけないことはありませんが、家族に甲状腺がんの方がいる場合は積極的に検査を受けた方が良いでしょう。
 実際、首が腫れているのに気がついたり、指摘されたりして病院を受診し、がんが見つかる方が多いです。また、最近では人間ドックや検診で施行した頸動脈エコーで偶然甲状腺にしこりが見つかって、受診される方も多くなりました。甲状腺の周りには気管や声を出すために必要な反回神経など重要な臓器があり、がんが進行して周辺の臓器にがんが浸潤してしまうと声が出なくなることもあります。ですから、首が腫れたり、人間 ドック等で指摘がありましたら、放置はせずに病院を受診してください。

プロフィール

五月女 恵一 (そうとめ けいいち)

五月女 恵一 (そうとめ けいいち)
乳腺・甲状腺外科 副部長
1986年 名古屋大学医学部卒業、同年應義塾大学医学部外科学教室入局、その後、足利赤十字病院、浜松赤十字病院、慶應義塾大学医学部外科学教室専修医、芳賀赤十字病院、国立がんセンター中央病院、日野市立病院、公立福生病院外 科部長を経て2019年4月より北里大学北里研究所病院。
日本外科学会専門医、日本乳癌学会専門医、指導医、日本甲状腺外科学会専門医、日本内分泌外科専門医、日本オンコプラスティック学会責任医師、がん治療認定医、検診マンモグラフィ読影認定医、乳癌検定超音波検査実施・判定医