認知症とは、認知機能障害が起こり日常生活に支障をきたす状態のことを言います。
そこには原因となる病気があり、症状や治療方法も異なります。そして、誰しもがなるかもしれない病気です。今回はそんな認知症について知っていただければと思います
認知症の原因疾患のなかで一番有名なのがアルツハイマー病です。タンパク質の蓄積で脳の神経のネットワークが乱れたり、神経細胞が少しずつなくなってしまう神経変性疾患の一つです。もの忘れが特徴的な症状で、高齢者に多く発症し、高齢者の認知症の半数以上はアルツハイマー病ではないかという統計が世界各国で報告されています。そして、神経変性疾患の認知症で二番目に多いとされているのがレビー小体型認知症です。幻覚、幻視、妄想といった精神症状が前景になるのが特徴で、統計によっても違いはありますが、認知症の大体10~25%の割合と言われています。もう一つは神経変性疾患ではなく、脳梗塞や脳出血が原因の脳血管性認知症です。認知症の原因疾患は他にも多種ありますが、これらが3大疾患とされてます。
認知症の治療は疾患によって異なります。脳血管性認知症の場合は、まず脳梗塞や脳出血の原因となる高血圧、糖尿病、心臓の病気などをコントロールする治療を行います。
神経変性疾患認知症では、大きくわけて二つの方法があります。一つ目は薬物療法です。しかしながら、根本的な部分である神経細胞が障害されることに関しての治療介入は、現在全くできていません。このタイプの認知症の方は、脳のなかで情報を伝達する神経伝達物質の一つであるアセチルコリンが減少しているので、そのアセチルコリンを増やす薬を使用します。また、神経伝達物質のグルタミン酸系のコントロールも悪くなることから、コントロールを調整する薬も用います。基本的にはこの二つの薬の組み合わせです。レビー小体型認知症をはじめ、他の認知機能障害性疾患で精神症状が軽減しない場合は他の薬物療法を導入す
ることもあります。二つ目は、こちらの方が大切ですが、日常生活でのリハビリやトレーニングも含んだ環境整備です。認知症の治療では環境的な要素がとても重要です。ご家族・介護の方々に病気を理解していただくとともに、ご本人に病識があればご本人にも病気を理解してもらった上で、どういった点をサポートして、どういった点を見守ればよいか考えてもらい、ご本人の不安を和らげ安心して生活を送れるようにアドバイスします。
加齢によるもの忘れなどと、認知機能障害は全く違うものです。では、日常生活において認知症かもしれない行動や言動とはどういったものなのでしょうか。以下に代表的な症状をあげていきます。
もの忘れがひどい(ものを探す・なくす、約束を忘れるなど)、同じことを繰り返し言う・聞くなどが代表的な事象ですが、認知症の診断基準で「日常生活に支障をきたす」指標としてあげられているのは、処方された薬の管理ができなくなる、買い物の支払いができなくなる(小銭をうまく使えずお札でばかり支払い、小銭が財布にたまるようになる)こととされています。
気にしてほしいのは一人にしておいて心配がないかということです。以前は何の心配もなかったけれど、最近の生活を見ていると危なっかしくて心配だなと感じる場合や、今までとは様子が違うと感じた際は、念のため相談してみるのがよいでしょう。
認知症の診断は、まずスクリーニング検査として心理検査を行い、どの様な・どの程度の認知機能障害が起こっているのかを調べます。その結果で認知機能障害があるかどうかが分かるのですが、正常と認知機能障害の境界線ははっきりとしたものではなく幅があり、この境界の部分を軽度認知症と言います。軽度認知症の方をフォローアップしていくと、一定数の方々は認知機能障害に進んでしまいますが、そのままそ
こに留まっている方もいれば、正常に戻る方もいます。ストレスなどのメンタル面の不調によって認知機能障害を疑うような症状が出てくることもあります。
ですから認知機能障害はある一点を診るのではなく、正常〜軽度認知症〜認知機能障害という線で診て、診断、治療をしなくてはいけないと言われています。
ご家族や身近な人に先にあげたような症状がある、そこまでではないけれど以前に比べて何か変わったなと感じる、もしくは周りから指摘を受けてご自身で気になっているなどあれば、一度受診することをおすすめします。脳神経内科や精神科があるお住いの地域の中核病院に行くのは少々ハードルが高いと思われるのであれば、まずはかかりつけ医に相談してみるのがよいでしょう。最近では「もの忘れ外来」を設けているクリニックも増えてきました。当院でも「もの忘れ外来」を週1回開設しています。完全予約制に
なっておりますので、どうぞご利用ください。
認知症は病気の根本への治療方法はわかっていませんが、早めの対応がとても大切です。早く診断することによって、今後どう変わっていくか、どういうようなことが起こりうるかということをご本人やご家族が知り、心も環境も準備することができます。また早期に治療を開始することによって、長く良い状態を保つことができる可能性が広がります。
気になることがありましたら、悩まず早めにご相談・ご受診ください。
梁 正淵(りょう まさふち)
1985年 北里大学医学部医学科 卒業。1998年 英国NHS Department of Neuropathology Newcastle General Hospital、2002年 北里大学医学部北里大学東病院神経内科学 講師(外来主任)、2010年北里大学医学部北里大学メディカルセンター 臨床准教授(内科部長)、東海大学医学部内科学系神経内科 准教授。2021年4月より北里大学北里研究所病院脳神経内科 部長。
日本神経学会(代議員)、日本神経病理学会(代議員、認定医、指導医)、日本老年精神医学会(評議員、
専門医、指導医)、日本認知症学会(専門医、指導医)など