お口の健康は、単に食事や会話のためだけのものではありません。
全身の健康と密接に関わっており、日々の口腔管理が将来の健康状態を大きく左右します。
だからこそ、正しい知識を身につけ、早い段階からケアを行うことが大切です。
歯周病は、歯を失う原因となるだけでなく、全身のさまざまな病気をひき起こす原因にもなります。歯を支える歯周組織に炎症が起こり進行すると、骨が溶けて歯がぐらつき、最終的には抜歯が必要になることもあります。初期の段階では自覚症状が少ないため、気づかないうちに進行してしまうので注意が必要です。
さらに、この慢性的な炎症は糖尿病の悪化や心臓疾患、誤嚥性肺炎などのリスクにも関与すると考えられています。お口のなかの細菌が体内に入り込むことで、全身の健康状態に影響を及ぼす可能性があります。
また、近年注目されているのが「オーラルフレイル(お口の衰え)」です。食べこぼしたりむせることが増えたり、滑舌が悪化したりといった変化は、口腔機能の低下のサインです。こうした状態を放置すると、全身の筋力が弱まったり要介護状態へとつながる可能性があります。
重要なのは、歯だけでなく「口腔機能全体」を守るという視点です。舌や唇の動きも含めた機能の維持が、健康長寿につながります。舌や口まわりの筋肉はトレーニングによって機能の維持・改善が期待できるため、日常生活のなかで意識的に動かすことや、専門職による指導を受けることも有効です。こうした積み重ねが将来的な機能低下の予防につながります。生涯、自分の口でおいしく食べ、楽しく会話することが、健康長寿の鍵となります。
当院では、一般の歯科医院では対応が難しいケースにも対応できる体制を整えています。例えば、親知らずの難抜歯や炎症、腫瘍、外傷など、専門的な設備と技術を要する口腔外科処置に対応しています。複雑な症例においても安全性を確保しながら治療を進めることが可能です。将来的には全身麻酔や入院を伴う治療にも対応できる体制を整えていく予定です。
また、高血圧や心疾患、糖尿病などの持病をお持ちの方に対しては、全身状態をモニタリングしながら安全に治療を行います。必要に応じて医科の医師と連携し、患者さまの状態に合わせた適切な治療を進めることができます。薬剤の影響や全身状態の変化にも配慮した治療が可能である点は、病院歯科の大きな特徴です。
さらに、他科での手術の口腔ケアにも力を入れています。口腔内の環境が整っていないと、術後の肺炎などの合併症リスクが高まることが知られています。そのため、手術前から口腔内を清潔に保つことが重要です。院内で医科と連携できる環境は、こうしたリスク低減に大きく寄与し、患者さまの早期回復にもつながります。
患者さまのお口の健康を守るためには、多職種による連携が欠かせません。そのなかでも中心的な役割を担っているのが歯科衛生士です。当院では3名の歯科衛生士が在籍し、それぞれが専門性を活かしながら、質の高い口腔管理を担っています。口腔内の清掃や専門的ケアに加え、日常生活におけるセルフケアの指導や予防支援など、継続的な管理を行っています。
特に入院患者さまなど、自身で口腔管理が難しい方に対しては、歯科衛生士が専門的な知識と技術をもとにケアを行います。口腔内を清潔に保つことは、誤嚥性肺炎などの合併症予防にもつながるため、全身管理の観点からも重要です。
また、医師や看護師、管理栄養士、リハビリ職のメンバーで「栄養サポートチーム(NST)」や「摂食嚥下支援チーム」を組んで、患者さまの状態に応じたケアを提供し、食事が困難な方の「食べる喜び」の回復に全力で取り組んでいます。
ほかにも、がん治療や薬物療法に伴う口腔トラブルへの対応など、病院ならではの専門的なケアにも対応しています。こうした専門性の高い支援により、患者さまの生活の質の向上を支えています。
口腔の健康を維持するためには、「かかりつけ歯科医」との二人三脚の関係が理想です。日常的な管理は地域の歯科医院で行い、専門的な治療が必要な場合には当院が後方支援としてサポートする――こうした連携を目指しています。
そのために当院では、紹介による受診と治療後の逆紹介を通じて、再び地域の歯科医院へとつなぐ体制を整えています。必要なときに専門的な医療を提供し、その後はかかりつけ歯科医による継続的な管理へと戻ることで、患者さま一人ひとりを長期的に支えることが可能になります。
症状が出てから受診するのではなく、定期的なチェックを行い、早い段階で問題に対応することが重要です。かかりつけ歯科医による日常管理と、当院による専門医療の連携が、口腔の健康を守るうえで大きな役割を果たします。
それぞれの患者さまに向き合う治療で、皆さまのお口の健康を守っていきたいと考えます。

酒井 克彦(さかい かつひこ)
歯科口腔外科部長
富山県出身。2005年 神奈川歯科大学歯学部卒業。東京歯科大学市川総合病院での臨床研修を経て、東京歯科大学オーラルメディシン・口腔外科学講座に入局。助教、講師を歴任し、口腔外科・口腔内科・老年歯科領域の診療・教育・研究に従事。2022年にはニュージーランドローズセンター脳卒中回復研究所 訪問研究員。2026年より北里大学北里研究所病院 歯科口腔外科部長。
日本口腔外科学会(専門医・指導医)、日本口腔内科学会(専門医・指導医)、日本口腔診断学会(認定医)、日本老年歯科医学会(専門医)、日本栄養治療学会(認定歯科医師)、日本摂食嚥下リハビリテーション学会(認定士)。